タクティクス




2峰5ピッチあたり



遠征の趣旨としては「みんなでおもいっきり登攀と極北のバフィンを楽しんでこよう」ということにあったので、参加者の個人的希望を聞くところから始まった。

まず「自分に何が出来るか?」「どんな登り方がしたいか?」を検証してもらい、その希望をもとに登攀スタイルとパーティ編成を詰めて行った。
その結果、
<A>ポーラスタイル:全ルートにフィクスを張って毎日BCから通う。というもので、両粂がリーダー。

<B>カプセルスタイル:手持ちのロープ(200m位)をフィクスし終えたら、全荷物を荷上げして後は尺取虫のごとく登る。というもので、山本がリーダー。

短期参加組:(当初は木原と溝手の2人だったが)は途中から入って途中から抜ける事になるので、終了まで壁に張りついたままになる<B>には入れない。<A>か別に<C>パーティをつくるかだが、<A>スタイルは毎日BCからのユマーリングアップとラッペルダウンがあり、それを考えると2組で交代しながらルートを伸ばして行く方がベターと考え、<A>に入ることになる。
その後<A>のリーダーである両粂が職場の都合で短期参加となったため、その選択は結果的には正しかったことになる。
最終的に各自の希望とローテーションなどを勘案したプランは以下のようになった。


<A>:短期参加の両粂達が来るまでは名越、井上、新山でパーティを組み、ルートを開拓しフィクスを張る。名越は<B>がGO-UPになるか、両粂達が来た時点で<B>に戻る。





実際の行動:

7/24までは3名それぞれが順番に2回づつトップで開拓をおこなった。

7/25から2峰は(ア:両粂、新山)(イ:井上、木原、溝手)に、パーティを固定して概ね代わりばんこに開拓に当たった。

その結果(ア)の組は新山が一度もトップを勤めなかったのですべて両粂がトップに立ち、(イ)の組は3名が順番にトップを勤めたため、天候等で運悪くほとんどルート開拓をすることなく終わった者もでた。

5名が順番にトップとセカンドをするようなローテイションにすればこのような事にはならなかっただろうが、短期組の滞在期間内には完登できなかったと思う。両粂たちが帰った後井上、新山の2人でルートを完成できたかかどうかはわからないが、「みんなで思いっきり登攀を楽しもう」という趣旨からすればどっちがよかったかは、言わずと知れていよう。

フィックスロープは10mmΦ X 200m(スタティック)を2本使用した(500m準備)。
最下部を固定して切らずに引き上げて張って行ったので、ロープ整理用に70Lのホールバッグを2個使用したが、有用だった。

荷上げ用には9mmΦ X 100m(スタティック)を使用し、トップはフリーな状態で腰に付けて持ち上げ連絡紐としても使用した。これの整理用として20Lの袋(ギアコンテ)を使った。滑車はウォールホーラー1個のみ。ビレーには(ボースン)チェアーを使用。



<B>1峰:名越が戻るまで山本、宮重でルートを開拓し、手持ちのロープをフィクスする。
名越が戻った時点から順番で3交代のローテーションとした。(実際はGO-UP体制になるまで2人にトップをやらせたが)
トップ・セカンドでビレー・休み、というパターンにした。

フィクスは取付きからの100mを同様のスタティック(ケービング)ロープを張り、GO-UP時は残して行った。

登攀用メインロープは60m X2本、50m X1本で、この3本をフィクスしたら荷上げしてビヴァークサイトを移動した。

荷上げ用ロープは9mmX100mを使ったが、メインロープに60m物を使用したため100mではやや不足するピッチもあったので、やはりメインの倍の長さが必要であった。ロープの材質はスタティックでないと役に立たないと言ってもいいだろう。

滑車はウォールホーラー1個で、分散荷重引き上げ方法は使用しなかった。

荷上げ時の一時荷止め方法はヨセミテ式にループスリング等を用いたが、荷下げ時は荷下げロープに尻尾をつけてそれを制動機で固定する方法をとったので、一回に全部(100kg)を下ろしたが一度も仮止めの荷を「ちょい上げ」する必要はなかった。

その他、ポーターレッジは2人用1台、1人用1台。水は4L/3人/1日、の計算で45L(12日分?)。ガスはEPI(240g)を12個。を持ち上げたが吊クッカー(マルキル)の熱効率が良いため、ガスは3日で1個しか消費しなかった。毎朝晩α米の雑炊も結構食えたし、ベーグルのサンドゥイッチなどは勲章物であった。

ただポーターレッジのフライは防水性の高いものでないとバフィンの雨(嵐)には通用しない。

トップとセカンド間の連絡にはトランシーバーを利用したが、ハングの上下では通じない事もあり、時々BCを介してのやりとりもあった。



尚、それぞれのパーティのタクティクスについては、各登攀リーダーを中心にパーティ内で話し合って?決めてもらったが、<A>についてはパーティ編成とローティションに相当な偏りがあったことは否めない。

<B>1峰についてはタクティクス的には殆ど問題はなかったと思う。完登できなかったのはそのルートに見合う実力がなかっただけのことである。



1峰よりのアスガード。左南峰、右北峰