「自分の感受性くらい」茨木のり子

 

ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて
*

気難しくなってきたのを

友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか
*
苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし
*

初心消えかかるのを

暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった
*

駄目なことの一切を

時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
*
自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ
*
*

 

「みずうみ」 茨木のり子

 

<だいたいお母さんてものはさ

しいん
としたとこがなくちゃいけないんだ>
*
名台詞を聴くものかな!
*
ふりかえると
お下げとお河童と
二つのランドセルがゆれてゆく
落葉の道
*

お母さんだけとはかぎらない

人間は誰でも心の底に
しいんと静かな湖を持つべきなのだ
*
田沢湖のように深く青い湖を
かくし持っているひとは
話すとわかる 二言 三言で
*
それこそ しいんと落ちついて
容易に増えも減りもしない自分の湖
さらさらと他人の降りてはゆけない魔の湖
*
教養や学歴とはなんの関係もないらしい
人間の魅力とは
たぶんその湖のあたりから
発する霧だ
*
早くもそのことに
気づいたらしい
小さな
二人の
娘たち