茅根 寒録
茅根 寒録(1822~1858)。名は泰。次は伯陽。通称は伊予之助。寒録と号す。寒録とは、秋・冬の時節に草木が青く茂るを言う。幕末の勤王家。水戸藩士。藤田東湖から、他日、水戸藩を率いる人物としえ嘱望された、塾を開いて門下を集めて教育に従事したが、安政の大獄の時に幕府に召喚されて罪をしいられ、安政五年八月二十七日獄死した。享年36歳。

    詠 史  (一)
龍口剣光凜似氷。    龍口の剣光 凜として氷にに似たり
犬羊豈敵我威稜。    犬羊 豈に敵せんや 我が威稜
遠猷今日猶遺憾。    遠猷 今日 猶を遺憾なり
只斬胡児不斬僧。    只だ胡児を斬って 僧を斬らず

    詠 史   (二)
三歳独嬰赤坂塁。    三歳の独嬰 赤坂の塁
精忠何問張睢陽。    精忠 何ぞ問わん 張睢陽
縦令一夜将星落。    縦い 一夜 将星 落つるも
添得南山剣鏡光。    添え得たり 南山 剣鏡の光

   日光山即事
長風六月征衣冷。    長風 六月 征衣 冷かなり
眼見煙雲脚下生。    眼に見るは 煙雲の 脚下に生ずるを
欲把小詩記風物。    小詩を把って 風物を記せんと欲すれば
水晶花裏乱蝉鳴。    水晶 花裏 乱蝉 鳴く

   暮 秋
雨湿東籬菊残処。    雨は湿す 東籬 菊の残する処
烟凝西郭日斜時。    烟は凝る 西郭 日の斜なる時
一般幽味無人伴。    一般 幽味 人の伴う無く
只有青州従事知。    只だ青州従事の 知る有り

   山 行
突兀峯巒翆髻敧。    突兀たる峯巒 翆髻 敧つ
路逢僻処景逾奇。    路は僻処に逢うて 景 逾々奇なり
炎天六月征衣冷。    炎天 六月 征衣 冷かなり
滄海長風払面吹。    滄海 長風 面を払って吹く

   読岳忠武集
淵源抱負見平生。    淵源 抱負 平生を見る
左氏春秋孫子兵。    左氏の春秋 孫子の兵
唾手燕雲呑北虜。    手に唾す 燕雲 北虜を呑み
誓心天地復東京。    心に誓う 天地 東京に復せんと
独非妍檜鋤忠義。    独り妍檜の 忠義を鋤くのみに非ず
無奈孱王忍父兄。    奈ともする無し 孱王 父兄を忍ぶを
開冬読来風雨夜。    開冬 読み来る 風雨の夜
至今猶覚恨難平。    今に至るまで 猶を覚える 恨み平かなり難しを

       08/11/23       石 九鼎     著す