蒼海詩集  (ニ)         石九鼎の漢詩館

全集二巻

   上暇不得作 (暇を上って得ざるの作)
日日把経朝建章。   日日 経を把って 建章に朝す
衣裳常惹御爐香。   衣裳常に惹く御爐の香
君王恩沢元深重。   君王の恩沢 元と深重
未敢放臣煙水郷。   未だ敢て臣を煙水郷に放たず

   秋風思故郷
橘柚橙柑秋共黄。     橘柚橙柑 秋 共に黄なり
幽人無日不思郷。     幽人 日として郷を思はざるなし
肥前粳稲百万(角斗)   肥前の粳稲 百万(角斗)
河上年魚尺許長。     河上の年魚 尺許長し

   寓居即事
一一学人何所学。   一一学人 何の学ぶ所ぞ
書非甚解句非工。   書は甚解にあらず句は工にあらず
平生頗敬淵明節。   平生 頗る敬す淵明の節
惟酒與茶論異同。   惟だ酒と茶と 異同を論ずる

   読詩 二十八首〈一)
国風而下有離騒。   国風 下に離騒あり
両漢古詩殊復高。   両漢の古詩 殊に復た高し
後世水曹何所取。   後世 水曹 何の取る所ぞ
傷心春草似青袍。   傷心の春草 青袍に似たり

   読詩 二十八首〈二)
慮遠憂深詩始奇。   慮遠 憂いは深く 詩始めて奇なり
詩言情性豈相欺。   詩は情性を言う豈に相い欺かんや
後人只走文辞末。   後人 只だ走る文辞の末
不乃自興奚取斯。   自興に乃ばず 奚れ斯を取る

全集巻三

   酔後歌
少年時日剣相磨。   少年 時日 剣相い磨き
白髪惟多酔後歌。   白髪 惟だ多し酔後に歌う
常利公家未看責。   常に公家に利して未だ責を看ず
主人賞薄奈之何。   主人の賞薄 之をいかんせん

   陞伯爵作
一代功臣誠意伯。   一代の功臣 誠意の伯
拝恩当日浅深情。   拝恩 当日 浅深の情。   
人生蓋棺論始定。   人生 棺を蓋して論 始めて定まる
末路応就何等名。   末路 応に何等の名に就くべし

   観岳飛書
我今獲見飛岳書。   我れ今 見ること獲たり飛岳の書
雄筆昂昂慷慨余。   雄筆昂昂たり慷慨の余
有宋朝廷公死後。   宋朝廷あり公の死後
赤心報国一人無。   赤心 報国 一人なし

   哀孫点
來安孫点去東都。   來安の孫点 東都を去り
碧海投珠名月孤。   碧海 珠を投じて名月孤なり
日本晁卿不帰久。   日本の晁卿 帰らざること久しく
白雲秋色満蒼梧。   白雲秋色 蒼梧に満つ

   寄題春畝山人陽和洞
一従君駕紫鸞帰。   一たび君が紫鸞に駕して帰りて従り
無復人題旧板扉。   復た人の旧板扉に題する無し
青石壇頭春晝静。   青石壇頭 春晝静に
陽和洞口断霞飛。   陽和洞口 断霞飛ぶ

   悼金玉均 二首 (一)
一慟東風春有余。   一慟 東風 春 余りあり
落花飄絮遣愁予。   落花 飄絮 予を愁い遣む
尤憐伍子走呉急。   尤も憐む伍子 呉に走る急に
頗惜陳蕃謀国疎。   頗る惜しむ陳蕃 国を謀ることの疎なるを

   悼金玉均 二首 (二)
元衡一死事酸辛。   元衡の一死 事 酸辛
白昼横行盗賊頻。   白昼 横行 盗賊 頻なり
啼鳥紛紛春二月。   啼鳥 紛紛 春二月
天涯魂魄不帰人。   天涯の魂魄 帰らざる人

   秋日懐李鴻章
忽聞清佛復交矛。   忽として聞く清佛 復た矛を交えると
福建厦門無焔不。   福建 厦門 焔の無きにあらざる
亞細乾坤日削弱。   亞細 乾坤 日に弱を削る
欧州民物年能鳩。   欧州の民物 年に鳩を能くす
丈夫報国常時歎。   丈夫 国に報ず 常時の歎
木葉盈林八月秋。   木葉 林に盈る 八月の秋
苦憶平生李総督。   苦ごろに憶う平生 李総督
讒多此夕惟掻頭。   讒かに此夕 惟だ頭を掻くこと多し

   秋日示諸生 四首 〈一)
嗟爾未能求一官。   嗟す爾が未だ能く一官を求めずを
江門為客歳頻寒。   江門 為客と為り歳 頻寒し
朝中権貴緒藤在。   朝中 権貴 緒藤在り
菅氏門流登第難。   菅氏 門流 第に登り難し

   題朱文公幅
人霊気霊書亦霊。   人霊 気霊 書また霊
壁上双幅耀双星。   壁上の双幅 双星に耀く
伊公不倣苟且事。   伊公 倣らわず苟且つ事
為点為勾毎丁寧。   点と為し勾と為し 毎に丁寧

   酬人語貧賎   
人生不如意。   人生 意の如くならず 
八九居十中。   八九は 十の中を居する
近報磐梯火。   近く磐梯の火を報じ
又言徳島風。   又た徳島の風を言う
功名成豎子。   功名 豎子と成り
貧賎陥英雄。   貧賎 英雄を陥す
独苦納涼夜。   独り納涼の夜に苦しむ
蚊群殊迫躬。   蚊群 殊さら躬に迫る

全集巻四

   遇述 三首 〈一)
未死只此是等人。   未だ死せず只だ此れ是等人
旧僚諸君随荒草。   旧僚諸君 荒草に随う
合知昭代量深弘。   合に知る昭代 量深弘きべし
不妨作詩遺一老。   詩を作り一老に遺すことを妨げず

   遇述 三首 〈二)
二十三年卿相身。   二十三年 卿相身
一荘未敢入吾手。   一荘未だ敢えて吾が手に入れず
假令流麗賦芳菲。   たとえ流麗をして芳菲を賦し   
物品須皆他囿有。   物品 須からく皆な他囿有るべし

   遇述 三首 〈三)
十六年來家不造。   十六年來 家 造らず
多埋眷族十五人。   多く埋れる眷族 十五人
先生得意猶耽句。   先生得意 猶を句に耽る
未建痩碑似寡仁。   未だ痩碑を建てず仁を寡に似たり

   憶森大來
快豁森大來。   快豁たり森大來
春風一座開。   春風 一座開く
以吾荒老甚。   吾が荒老甚きを以って
微爾興情摧。   爾を微して興情摧
李賀花成骨。   李賀 花 骨と成る
青蓮緑満盃。   青蓮 緑 盃に満る
有時労顧念。   時ありて顧念を労す
望断碧雲隈。   望断す碧雲の隈

   寧齊約來訪。喜賦三首 (一)
與子同郷里。   子と郷里を同じゅうす
誰如愛子多。   誰か子を愛するが如く多し
妙齢富才藻。   妙齢 才藻に富み
弱植善吟哦。   弱植 吟哦を善くす
明日相迎處。   明日 相迎る處
残芳已謝柯。   残芳 已に柯に謝す
屋端無所見。   屋端 見る所なし
唯有夏雲過。   唯だ夏雲の過るあり

   寧齊約來訪。喜賦三首 (二)
子至期明日。   子の至る 明日に期す 
不知何所向。   知らず何れの所に向う
老顔看喜色。   老顔 喜色を看ん
門戸u光栄。   門戸 光栄にuす
弱婦持杯至。   弱婦 杯を持して至る
少孫逢客驚。   少孫 客に逢うて驚く
偶談先輩事。   偶々 先輩の事を談じ
輒欲及家兄。   輒ち家兄に及ばんと欲す

   書津田三蔵始末
両国礼相見。   両国の礼 相い見る
至尊歓作賓。   至尊 歓 賓を作す
匹夫行兇逆。   匹夫 兇逆を行う
比事干闕宸。   比事 闕宸を干す
論罪非当死。   罪を論じ死に当らず
庇凶難道仁。   凶を庇い仁をいうに難し
汗漫今日政。   汗漫 今日の政
軽薄二三臣。   軽薄たり二三の臣

巻五

   還家作
諸君兀兀漫相問。    諸君 兀兀 漫に相い問う
話去話來辞柄新。    話し去り話し來って辞柄新なり
老子不知時世事。    老子は知らず時世の事
終年閉閤作詩人。    終年 閤を閉して詩人と作る

   口号解嘲
歯髪(イ灸)脱離。   歯髪にわかに脱離
汝為汝我我。      汝は汝たり我は我たり
六尺猶聚塵。      六尺 猶を塵を聚める
無可無不可。      可なく 不可なし

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