田中 桂南
田中桂南。名は澄太郎、桂南と号す。明治13年8月福岡県朝倉に生まれる。医者となり長崎に住す。
宮崎来城に詩を学ぶ。詩集に「桂南集」有り。詩力・詩才。共に優れている。

   秋晩、過香樹山房
霜樹二三本。   霜樹 二三本
南山対菊花。   南山 菊花に対す
夕陽添彩翠。   夕陽 彩翠を添え
古刹住煙霞。   古刹 煙霞い住む
似読大痴画。   読むに似たり 大痴が画
宜停小杜車。   宜しく停むべし 小杜が車
僧房煮茗久。   僧房 茗を煮ること久しく
松暝欲栖鴉。   松暝れて 鴉を栖ましめんと欲す
  ◇大痴: 元朝の画家、黄公望。
  ◇小杜: 晩唐の杜牧。

   冬 夜
月前老木痩于僧。   月前の老木 僧よりも痩せたり
寒景瀟瀟夜気凝。   寒景 瀟瀟たり 夜気 凝る
霜満四山秋色尽。   霜は四山に満ちて 秋色 尽き
落楓如雨灑孤灯。   落楓 雨の如く 孤灯に灑ぐ

   恵蘇山陵
祠樹一層雲一層。   祠樹 一層 雲一層
有人憑弔立崚嶒。   人あり 憑弔して 崚嶒に立つ
山風吹下花如雪。   山風 吹いて下り 花 雪の如し
春尽斎明古帝陵。   春は尽く 斎明 古帝陵

   初 夏
詩魂入夏易凄迷。   詩魂 夏に入りて 凄迷たり易し
日暮倚欄鴉欲栖。   日暮 欄に倚れば 鴉 栖まんと欲す
酔骨須埋芳草裏。   酔骨 須らく埋むべし 芳草の裏
酒家楼側故萋萋。   酒家の楼側 故さらに萋萋たり
  ◇萋萋: 草や樹木の茂る様子。

   新 秋
一池秋水澹于雲。   一池の秋水 雲よりも澹く
奄冉荷香暝可聞。   奄冉たる荷香 暝に聞くべし
木末風来星欲砕。   木末 風来って 星 砕けんと欲す
露華乱墜夜紛紛。   露華 乱墜 夜紛紛

   日 田
路在落花流水前。   路は落花 流水の前に在り
行人晩上渡江船。   行人 晩に上る 渡江の船
筑山東接豊山緑。   筑山は東のかた 豊山に接して緑なり
也聴鵑声入日田。   また鵑声を聴いて 日田に入る

  三井寺
明月青山古梵j城。    明月 青山 古梵j城
吾来愛聴夜鐘声。    吾 来たりて 愛し聴く 夜鐘の声
一湖雲気白於水。    一湖の雲気 水よりも白く
七十二峰秋色生。    七十二峰 秋色 生ず

    08/11/18   石 九鼎    著す