杜牧詩選

(803〜 852)字は牧之。長安の出身。豪直にして奇節あり、小事にこだわず、大事を論列祉病利を指陳して最も切などと評されている。彼の詩風は豪放でで、人々は杜甫に比べて小杜と呼んでいる。懐古の詩と,奔放な情熱な作品が目につく。晩唐詩人で人気のある詩人。

     山 行
遠上寒山石径斜。    遠く寒山に上れば 石径 斜めなり
白雲生処有人家。    白雲生ずる処 人家有り
停車坐愛風林晩。    車を停めて坐に愛す風林の晩
霜葉紅於二月花。    霜葉は二月の花よりも紅なり

秋の寂しいやま、砂利の小道が斜めに通じている。遙か白雲の漂う辺りに人家が見える。車を止めて何となく楓の紅葉した日暮れに見とれていると、霜によって紅葉したその色は、夕日に映えて春の盛りの花よりも、紅の色が勝っている。


     泊 秦 淮
煙籠寒水月籠沙。     煙は寒水を籠めて 月は沙を籠める
夜泊秦淮近酒家。     夜 秦淮に泊して酒家に近し
商女不知亡国恨。     商女は知らず亡国の恨
隔江猶唱後庭花。     江を隔てて猶ほ唱う後庭花

煙は寒水に立ちこめて月光は沙上に広寒の影を投げている。秦淮まで来て夜一泊することになったが宿は酒家に近い、そこで妓女の歌う後庭花の曲が河越しに聞こえてくる。歌う妓女はこの後庭花の曲の由来も知ること無く歌っているがこの一曲に亡国の恨みが籠っているのだ。


    登楽遊原
長空澹澹孤鳥没。     長空澹澹 孤鳥没す
萬古消沈向此中。     萬古消沈 此中に向かう
看取漢家何以業。     看取す漢家 何以の業
五陵無樹起秋風。     五陵 樹の秋風を起す無し

もの静かな果てもなく広がっている空に一羽の鳥が飛んでいたが空中に吸い込まれ姿を消してしまった。万古の間、何もかも消失してこの中に没入してゆく、漢家四百年の歴史を、この土地も見たののだろう。漢朝時代何を為したのだろうか、楽遊原のこの高台から長安を一望すれば遠望遙か五陵も既に秋風を起す木立さえ無くなった。


   遣 懐
落魄江南載酒行。    江南に落魄して酒を載せて行く
楚風腸断掌中軽。    楚風腸断 掌中に軽し
十年一覚揚州夢。    十年一覚 揚州の夢
?得青楼薄倖名。    ?得たり青楼 薄倖の名

想起すれば、江南の地に、うらぶれて、酒を飲み歩いていた頃、将に楚王の宮殿から出て来たと思われる細腰の美女が人の心を揺さぶるばかり、まるで漢の成帝皇后、趙飛燕の再来かと思う程、体の軽さは掌の上で舞いもできそうな気がした。遊びに夢中だった。揚州の歓楽の夢が覚めた今では、十年の歳月を過ぎた。残ったのは妓楼の遊蕩児と言う名だけである。