漢 詩 作 詩 講 座   (13)

漢詩に唐・宋・明・清・の別は無い。然し,巧みなもの拙なもの,雅なるものと,俗なるものとの,区別はある。その巧みと拙との別れとなる別は,意「精密」を用いているか,意「疎漫」を用いていないか,による

この雅と俗の別れる所は,目の著け所の雅「高尚」であるのと,俗「卑近」なものとに係る。と古来から伝える。(広瀬淡窓)

用意の精と粗。
「芳野三絶」と言われものがある。それぞれ芳野を懐古したもの,その用意精粗を比較して看るのも一興である。

芳野懐古  梁川星巌
今來古往跡茫茫。   今來 古往 跡 茫茫たり
石馬無声坏土荒。   石馬 声なく坏土荒れ
春入桜花満山白。   春 桜花に入って 満山 白く
南朝天子御魂香。   南朝の天子 御魂 香ばし

芳野懐古  藤井竹外
古陵松柏吼天(風炎)。   古陵の松柏 天(風炎)に吼える
山寺尋春春寂寞。      山寺 春を尋ねれば春 寂寞
眉雪老僧時輟箒。      眉雪の老僧 時に箒ことを輟め
落花深處説南朝。      落花 深き處 南朝を説く

芳野懐古  河野鉄兜
山禽叫断夜寥寥。    山禽 叫断し 夜 寥寥
無限春風恨未鎖。    無限の春風 恨み未だ鎖えず
露下延元陵下月。    露下 延元 陵下の月
満身花影夢南朝。    満身の花影 南朝を夢みる

厳滄浪は曰く;詩は字を練ることを要する,字は眼なり。
杜甫の詩
飛星過水白。   飛星 水を過ぎてを白く
落葉動檐虚。   落葉 檐を動かして虚し
     中間の一字,「過,動」を練る。過,動の字がこの詩を一段と引きたてる。

紅入桃花嫩。   紅は桃花に入り嫩なり
青帰柳色新。   青は柳色に帰りて新なり
     第2字「入・帰」を練る。練るに非らずんば児童の詩なり。入・帰の2字が詩を一段と引きたてる。

瞑色赴春愁。   瞑色 春愁に赴く
無因覺來往。   來往を覺えるに因し無し
     第3字「赴・覺」を練ること無ければ,是れは俗詩である。と厳滄浪は切って捨てる。

芳野懐古  頼 杏坪
萬人乗酔撹芳草。   萬人 酔に乗じて 芳草を撹す
感慨誰能與我同。   感慨 誰が能く 我と同じゅうする
恨殺残紅飛向北。   恨殺す残紅の 飛んで北に向かうを
延元陵下落下風。   延元 陵下 落下の風

芳野三絶に比べて如何だろうか,芳野三絶は吟詠家好みである。頼杏坪の芳野懐古は深婉を覚える。漢詩人好み即ち玄人好みである。芳野三絶の中に,中国の漢詩を換骨奪胎したものが一首ある。興味のある方は研究されたい。




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