漢 詩 作 詩 講 座 (8) 起句に限り韻字を押用しないこともある。これを押落(ふみおとし)と言う。七言で言えば押落を変例とし,五言に在lっては押韻を常則とする。押韻の場合には,下三字に●○○は○○●に変える,◇●○は○●●と変える。押落にも自ずから制限がある。 全対格 全対格は起承及び転結ともに対句に作り前対格と同じく押落(ふみおとし)にするのを常則とする。然し押落にしない例外も有る。 喜聞盗賊蕃寇総口号 杜甫 ○○●●●○○ 蕭関隴水入官軍。 蕭関の隴水 官軍に入る ○●○○●●○ 青海黄河捲塞雲。 青海 黄河 塞雲を捲く ●●●○○●● 北極転愁龍虎気。 北極 転た愁う龍虎の気 ○○○●●○○ 西戎休縦犬羊群。 西戎 縦ままにするを休めよ犬羊の群 過鄭山人所居 劉長卿 ●●○○○●○ 寂寂孤鴬啼杏園。 寂寂たる孤鴬 杏園に啼く ○○●●●○○ 寥寥一犬吠桃源。 寥寥たり一犬 桃源に吠え ●○○●○○● 落花芳草無尋処。 落花 芳草 尋ぬる処 無き ●●○○●●○ 萬嶽千峰獨閉門。 萬嶽 千峰 獨り門を閉める 拗体詩 七言絶句の平仄式に『拗体』と称する破格の平仄法がある。 起句 ◇○◇●●○○ ーー韻 承句 ◇●◇○◇●○ ーー韻 転句 ◇○◇●○○● 結句 ◇●◇○◇●○ −−韻 前半は普通の平起式の平仄法で,後半は仄起式の平仄法を用いる。下記に作例を示す。 除州西澗 韋応物 ●○○●●○○ーー韻 獨憐幽草澗辺生。 獨り憐れむ幽草の澗辺に生ずるを ●●○○ ○●○ーー韻 上有黄(麗鳥)深樹鳴。 上に黄(麗鳥)の深樹に鳴く有り ○○●●●○● 春潮帯雨晩來急。 春潮 雨を帯びて晩來 急なり ●●○○○●○ 野渡無人舟自横。 野渡 人なく 舟 自ら横たう これは拗体平仄に依るもの。 又,拗字法と言うのが有る,その最も多く用いられるのがニつ有る。一例は転句の下三字○●●を●○●とする,則ち第五字平と第六字仄とを転換するもの。第ニ例は転句の下三字を●○●とし結句の下三字を○●○として,相対立させる,則ち転句の第五字平と結句の第五字仄とを転換する。 拗字法,●○●は下記に例を示す,但し煩を省き適例の一句のみ。 ●○● 夜発清渓向三峡。 夜る清渓を発し三峡に向かう (李白) ●○● 我寄愁心與名月。 我れ愁心に寄せて名月にあたう (李白) ●○● 正是江南好風景。 正に是れ江南 好風景 (杜甫) ●○● 欲把西湖比西子。 西湖を把って西子に比せんと欲っす (東坡) 仄韻詩 七言絶句は平韻を押韻するのを常韻とするが,若し仄韻を用るのは普通の絶句と同じではない。近代中国詩人は好んで仄韻詩を用いている。作例を示せば, 遊三遊湖 東坡 ●●○○●○● 凍雨霏霏半成雪。 凍雨 霏霏 半ば雪と成す ○○●●○○● 幽人屡冷蒼崖滑。 幽人 屡ば冷やかに蒼崖 滑かなり ●○○●○●○ 不辞携被巌底眠。 辞せず被くを携えて巌底に眠るを ●●○○●○● 洞口雲深夜無月。 洞口 雲深く 夜 月なく 蜀山書舎圖 高啓 ○●○○●○● 山月蒼蒼照煙樹。 山月 蒼蒼 煙樹を照す ●●○○●○● 碧浪湖頭放船去。 碧浪湖頭 船を放って去る ●○●●●○○ 隔林夜半見孤灯。 林を隔てて夜半 孤灯を見る ○●○○●○● 知是幽人読書処。 知る是れ幽人 読書の処 通韻詩 韻字は転句を除く他は起承結の三句共に一韻を押用するのが常則であるが,「通韻」と言うものが有る。同一韻と見なして押用する。韻字の拘束を苦にして通韻を乱用することが無いようにしたい。 井欄砂逢夜客 李渉 ●●○○○●○ 暮雨蕭蕭江上村。 暮雨 蕭蕭たり江上の村 村(村は十三の韻) ●○○●●○○ 緑林豪客夜知聞。 緑林の豪客 夜る知聞す ○○●●○○● 他事不用逃名姓。 他事 用ひず名姓を逃れるを ●●○○●●○ 世上如今半是君。 世上 如今 半ば是れ君 回郷偶書 賀 知章 ●●○○●●○ 少小離家老大回。 少小 家を離れて老大にして回る ○○●●●○○ 郷音無改鬢毛衰。 郷音 改たまる無く 鬢毛 衰ろう 衰(衰は四支の韻) ○○○●●○● 児童相見不相識。 児童 相い見て 相い識らず ●●●○○●○ 笑問客従何処來。 笑うて問う客は従何この処より來たると 題不識庵撃機山図 頼山陽 ○○●●●○○ 鞭声粛粛夜過河。 鞭声 粛粛 夜る河を渡る 河(河は五歌の韻) ●●○○○●○ 暁見千兵擁大牙。 暁に見る千兵の大牙を擁するを ●●○○○●● 遺恨十年磨一剣。 遺恨なり十年 一剣を磨き ○○●●●○○ 流星光底逸長蛇。 流星 光底 長蛇を逸するとは ◇⇒平・仄を問わず。○⇒平韻。 ●⇒仄韻。 冒韻詩 韻脚と同韻の字を第二字以下に用いることを冒韻と言う。転結句に用いるは許されるが,起承句に冒韻を侵すは初学者は特に避けること,例を下記に示す。 逢鄭三遊山 盧同 ○○○●●○○ 相逢之處草茸茸。 相い逢う之處 草 茸茸 ●●○○○●○ 峭壁攅峰千萬重。 峭壁 攅峰 千萬重 ○●○○○●● 他日期君何処好。 他日 君に期す何の処か好き ○○●●●○○ 寒流石上一株松。 寒流 石上 一株の松 ○ ○ ○○○ この詩の相逢の逢字,攅峰の峰の字,共にニ冬の韻で韻脚の茸重松の三字と同韻であり,このような使用法は詩家は慎むべきであり,転結は許されるが,起承句の冒韻は初学の避ける例として掲げる。 一句中の同字は許される ○ ○ 試自江南望江北。 試に江南より江北を望む 又, ○ ○ ○ 春度春帰無限春。 春度り春帰り限り無きの春 又, ○ ○ 揚子江頭楊柳春。 揚子江頭 楊柳の春 ■一句同字重出,間違いではない,高度な表現法の一つであるが頻繁に作詩するものでも無い。 文法上で言う「実字」(名詞・数詞),「虚字」(動詞・形容詞・副詞・前置詞)。 韻字。 韻字には実字,虚字がある,虚字とは來,去,多,少,のように視覚言動,或いは,焉,哉,乎,也,の如く実字なきものを言い,実字とは山川,草木,日月,風雷,のように実形のあるものを言う。 「三体詩」の他に詩を分類選禄して作詩の標準したものに,「聯首詩格」(絶句)。「瀛奎律髄」(律詩)が有る。本格的に漢詩を研究するには必要な書籍である。古書店でしか入手が困難,予約が必要 本の街,神田。 http://www.book-kanda.or.jp/ が古書を看付けるに便利。 thhp://www.ccv.ne.jp/home/tohou/gouza8.htm Copyright (C) 2001-2004 石九鼎の漢詩館 このページへのリンクはj自由です。無断コピーは禁止します |