井上舒庵
井上舒庵(1900 ~1977)東大法科を卒業後、鉄道省に奉職し、退職後は交通博物館長に就任。南画を日下部道寿に学び、詩は土屋竹雨に学ぶ。『言永』が土屋竹雨没後に刊行された時、その経営に当たる。経済的貢献、20年。

令嗣章氏が遺稿集『舒庵詩鈔』を刊行された。

   能州旅次
曲径崎嶇断復通。    曲径 崎嶇として 断えて復た通ず
峻崖矗矗乱雲中。    峻崖 矗矗たり 乱雲の中
攔蹊奇石虎蹲地。    攔をさえぎる 奇石 虎 地に蹲くまり
敧岸老松龍躍空。    岸にそばだつ 老松 龍 空に躍る
気象雄渾懐北苑。    気象 雄渾 北苑を懐はしめ
点皴奇逸似南宮。    点皴 奇逸 南宮に似たり
何人妙手能収拾。    何人か妙手もて 能く収拾せむ
擲筆偏歎造化工。    筆を擲って 偏に歎ず 造化の工なれを

   草堂
渉趣村園未索然。    村園を渉趣して 未だ索然たらず
有梅有竹有清泉。    梅あり 竹あり 清泉あり
柴門春日無人訪。    柴門 春日 人の訪う無く
也好炷香繙簡編。    也た好し 香を炷して 簡編を繙くに

   山中雑吟
塵外棲遅遠世紛。    塵外に 棲遅して 世紛に遠ざかり
蓬蒿没径不曾耘。    蓬蒿 径を没するも 曾ぅて耘らず
山中日夕更無課。    山中の 日夕 更らに課なく
読易之余看白雲。    読易の余 白雲を看る

   題 画
素梅花底臥茅蘆。    素梅 花底 茅蘆に臥す
午静山中似太初。    午静かにして 山中は 太初に似たり
老懶幽人曲肘睡。    老懶の幽人 肘を曲げて睡れば
香風吹颭読残書。    香風 吹いて颭かす 読残書

   病中吟
春半抱痾空負花。    春半ば 痾を抱いて 空しく花に負く
無聊時起煮龍芽。    無聊 時に起って 龍芽を煮る
連宵唯学荘周夢。    連宵 唯だ学ぶ 荘周の夢
何日快心尋緯霞。    何れの日か 快心 緯霞を尋ねん

     08/11/10    石 九鼎  著す