蒋士銓

　清十家絶句集　（８）　　　　　忠雅堂詩鈔
　蒋士銓

蒋士銓。（1725～1785）江西省鉛山県の人。字は心余、号は清容。蔵園とも言う。性霊を重んじ格調派と対抗し、袁枚、趙翼と共に乾隆三大家と呼ばれる。忠雅堂詩集が有る。

　湖口県守風
家郷無處好烟鬟。　　　家郷　處として好烟の鬟は無く
青八東南第幾湾。　　　青八　東南　第幾湾
不似太行窓戸裏。　　　似ず太行　窓戸の裏
年来飽看割愁山。　　　年来　飽きて愁を割し山を看る

　八月十五夜題号舎壁
残杯冷炙不能餐。　　　残杯　冷炙　餐するに能たわず
四壁蒼苔擁暮寒。　　　四壁の蒼苔　暮寒を擁す
合到瓊楼高處去。　　　合に瓊楼　高處に到りて去り
此中秋月護人看。　　　此中　秋月　人を護って看るべし

　杭州
長笛凄清不可聞。　　　長笛　凄清たり聞くべからず
慶春橋北欲黄昏。　　　慶春橋北　黄昏ならんと欲す
越娘休笑青衫旧。　　　越娘　笑うを休めよ青衫の旧なる
初向杭州著酒痕。　　　初て杭州に向い酒痕を著ける

　楊太真双魚鏡（一）
黄裙一半土花斑。　　　黄裙　一半　土花　斑だらなり
消受羅衣繋玉環。　　　羅衣を消受し玉環を繋ぐ
不信梨花墳上月。　　　信ぜず梨花　墳上の月
也随金碗到人間。　　　也た金碗に随いて人間に到る

　楊太真双魚鏡（二）
翆匣収蔵只念奴。　　　翆匣に収蔵す只だ念奴
而今紙閣伴羅敷。　　　而今　紙閣　羅敷を伴う
不知水殿承恩夜。　　　知らず水殿　恩を承まわる夜
許照蛾眉淡掃無。　　　蛾眉　淡掃を照らすこと許す無し

　烏江竹枝
乱摘山花満挿頭。　　　乱れて山花を摘み挿頭に満つ
三朝新婦亦嬌羞。　　　三朝の新婦　亦た嬌羞
儂夫那及虞家婿。　　　儂夫　那ぞ虞家の婿に及ぶ
不跨烏騅只跨牛。　　　烏騅に跨がず只だ牛に跨ぐ

　董恒巌太守芝龕記題詞
降旗猟猟走蟲沙。　　　降旗　猟猟　蟲沙を走る
不見宗耶與岳耶。　　　見ず宗耶と岳耶と
畫出美人名馬像。　　　美人名馬の像を畫き出す
宝刀如雪滾桃花。　　　宝刀　雪の如く桃花に滾る

　題王石谷畫冊十二首　（一）
孤亭危坐意蕭然。　　　孤亭に危坐　意　蕭然たり
千尺松涛響乳泉。　　　千尺の松涛　乳泉に響く
可惜隆中臥龍子。　　　惜む可し　隆中　臥龍子
肯将丞相換神仙。　　　肯て丞相を将って神仙に換んや

　題王石谷畫冊十二首　（二）
人影蕭蕭竹影寒。　　　人影　蕭蕭　竹影寒し
悠然杖履共平安。　　　悠然たり杖履　共に平安
澄渓見底遊魚避。　　　澄渓　底を見る遊魚の避るを
不用臨渕斬釣竿。　　　用いず渕に臨んで釣竿を斬るを

　自題蔵園図三首　（一）
換却春衣試晩涼。　　　春衣を換却して晩涼を試みる
破雲眉月点新光。　　　雲を破る眉月　新光を点ずる
蛙声漸起暮鴉睡。　　　蛙声　漸やく起て　暮鴉は睡る
風弄一池荷葉香。　　　風は弄す一池　荷葉　香し

　池州道中
人家都向畫中移。　　　人家　都て畫中に向い移る
門外春江遶緑波。　　　門外の春江　緑波を遶る
不但蓮花開九朶。　　　但だ蓮花の開くこと九朶のみ不ず
遠山横處尽蛾眉。　　　遠山　横處　尽く蛾眉

　感懐
半輪孤月挂危欄。　　　半輪の孤月　危欄に挂る
市語人声下界歓。　　　市語の人声　下界の歓
夫子呻吟残燭底。　　　夫子は呻吟　残燭の底
病妻猶自祝平安。　　　病妻　猶ほ自ら　平安を祝う

　十一月二十四日為内子生日泊京口待風感憶二首（一）
來苦怱怱去苦遅。　　　來れば苦はだ怱怱　去れば苦はだ遅し
此心只有精神知。　　　此の心　只だ精神の知る有り
花前豈少団欒宴。　　　花前　豈に団欒の宴　少らんや
不及斯辰手一巵。　　　及ばず斯の辰　一巵を手にする

　宿西興二首（一）
故人相約剪秋燈。　　　故人　相約して秋燈を剪る
畫舫烏篷碧水澄。　　　畫舫の烏篷　碧水澄む
今夜山中慈母夢。　　　今夜　山中　慈母の夢
定随遊子到西興。　　　定めて遊子に随い西興に到らん

　寄家書二首（一）
秋花満院母加餐。　　　秋花　院に満ちて　母は餐を加える
晨夕添衣禦薄寒。　　　晨夕　衣を添え　薄寒を禦ぐ
鴻雁拂天魚在水。　　　鴻雁　天を拂い　魚は水に在り
一旬一信報平安。　　　一旬　一信　平安を報ずる

　寄家書二首（二）
十五男児比母長。　　　十五の男児　母に比すれば長し
学書家信語周詳。　　　書を学び家信　語　周詳なり
淅東夢與江南夢。　　　淅東の夢と江南の夢と
何處天涯是故郷。　　　何れ處ぞ天涯　是れ故郷

　卜居二首　（一）
半窓紅雪一楼書。　　　半窓の紅雪　一楼の書
廿載辛勤有此盧。　　　廿載の辛勤　此の盧あり
不肯被他猿鶴笑。　　　肯て他の猿鶴により笑わざる
移家來就北山居。　　　家を移し來就す　北山の居

　卜居二首　（二）
鍾山真作我家山。　　　鍾山　真に我が家山と作す
揀得行窩静掩関。　　　行窩を揀り得て静かに関を掩う
洗去六朝金粉気。　　　六朝金粉の気を洗い去って
展開屏障畫煙鬟。　　　屏障を展開して煙鬟を畫く

　立春前一日喜雪五首　（一）　
失却窗南数朶青。　　　失却す窗南　数朶の青
遶楼新放水晶屏。　　　楼を遶り新に放つ水晶の屏
初知身在混茫裏。　　　初て知る身は混茫の裏に在るを
人海中間一點萍。　　　人海　中間　一點の萍

　李園高詠楼銷夏十二首　（一）
芙蓉瞼際美人多。　　　芙蓉　瞼際　美人多し
十二金釵値幾何。　　　十二金釵　値は幾何ぞ
若化鴛鴦眠到老。　　　若し鴛鴦に化し眠り老い到れば
不須惆悵賦微波。　　　もちひず　惆悵　微波を賦すを

　自題観河面皺図二首（一）
阻風中酒慣銷魂。　　　風を阻む中酒　魂を銷ずるに慣れる
指點蒼茫記纜痕。　　　蒼茫を指點し纜痕を記す
那及家郷釣遊處。　　　那ぞ及ぶ家郷　釣遊の處
桃花紅過第三邨。　　　桃花　紅は過ぐ　第三邨

　山塘曲二首（一）
九曲珠欄七里塘。　　　九曲の珠欄　七里の塘
四時花月護鴛鴦。　　　四時の花月　鴛鴦を護る
如何軟玉温香国。　　　如何ぞ軟玉　温香の国
尚有梁鴻対孟光。　　　尚ほ梁鴻の孟光に対する有り

　戯題睡鴎
鳳銜丹詔鶴銜籌。　　　鳳は丹詔を銜み鶴は籌を銜む
百鳥惆愀各自謀。　　　百鳥　惆愀　各々自ら謀る
我與沙鴎同懶惰。　　　我と沙鴎と同じく懶惰
水邊濃睡却低頭。　　　水邊　濃睡　却て頭を低くす

　送裘超然北上
料理年時擲果車。　　　料理　年時　擲果の車
比肩人坐曉征徐。　　　比肩　人は坐す　曉征徐かに
誰知七尺青油壁。　　　誰か知る七尺　青油壁
半載香匳半載書。　　　半載の香匳　半載の書

　[目次]