清十家絶句集　　　（1１） 　　　　　　初有学二集 　銭謙益 銭謙益。（1582〜1664）字は受之、号は牧齋。江蘇省常熟県の人。。1644年、南京陥落に際して、真っ先に清軍に降表を奉じ、晩節を汚した『弐臣伝』中の人物。明清両朝に仕えた変節漢の列伝であり、問題の行為が多く、後世の評価は頗る冷たい。銭謙益死後百年、明王朝の反節は、乾隆帝によって採り上げられ(1769年)彼の文学の抹殺が企てられる。 『弐臣伝巻六』上論には、「もと才有りて行い無き人」又、「大節に欠くる有りて、まことに人類に歯するに足らず」と切り捨てる。然し、彼の博学は佛典の研究に及び、詩は杜甫、韓愈、蘇軾、陸遊い学び趣を広くしたと評される。沈徳潜の「国朝詩別栽集」には銭謙益の詩は無い。 参考文献、漢詩大系、清詩選。近藤光男。：近世詩集、入谷仙介他。 （吉川幸次郎氏の「銭謙益と東林」にその履歴が詳しく示されている。） 　　徐州雑題 彭城十日水奔流。　　　彭城　十日　水　奔流す 太守行呼吏卒愁。　　　太守　行き呼びて吏卒愁う 河復詩成無一事。　　　河復た詩成りて一事も無く 羽衣吹笛坐黄楼。　　　羽衣　笛を吹いて　黄楼に坐す 　　惆悵詞　（一） 清切呉音和梵音。　　　清切　呉音　梵音に和す 残経晩院影沈沈。　　　残経　晩院　影　沈沈 含嬌欲共荷花語。　　　嬌を含み荷花を共に語らんと欲す 寝寝誰知不染心。　　　寝寝として誰か心を染めざるを知る 　　惆悵詞　（二） 秋風偏向夜窓清。　　　秋風　偏に夜窓に向かって清し 一片銀河畫不成。　　　一片の銀河　畫けども成らず 俗殺陳王神女賦。　　　俗殺す陳王　神女の賦 月明吹作歩丘声。　　　月明　吹いて歩丘の声と作す 　　　（虫＋夾）蝶詞　（一） 一庭花霧昼冥濛。　　　　　　　一庭　花霧　昼　冥濛たり （虫＋夾）蝶双飛逐好風。　　（虫＋夾）蝶　双飛　好風を逐う 依約黄簾還繍幕。　　　　　　　依約たり黄簾　還た繍幕 可曽飛過宋家東。　　　　　　　曽って飛んで宋家の東に過ぐるべきに 　　（虫＋夾）蝶詞　（二） 倚尽疏窓十二欄。　　　　　　　疏窓に倚り尽す十二欄 愁腸不似帯圍寛。　　　　　　　愁腸　帯圍の寛きに似ず 春光滞殺間庭院。　　　　　　　春光　滞殺す　間庭院 （虫＋夾）蝶双飛也作團。　　　（虫＋夾）蝶　双飛　也た團と作す 　　柳絮詞（一） 唱断蘇臺楊柳枝。　　　唱断す蘇臺　楊柳枝 春愁如線又如絲。　　　春愁は　線の如く　又た絲の如く 古歌旧恨君休記。　　　古歌　旧恨　君み記するを休めよ 聴取新翻柳絮辞。　　　新翻　柳絮の辞を聴取する 　　柳絮詞（二） 送郎莫唱楊柳枝。　　　郎を送り楊柳枝を唱うる莫れ 生憎一簇更千絲。　　　生い憎く一簇　更に千絲 柳枝只鮮綰離別。　　　柳枝　只だ離別を綰うを鮮に 柳絮随郎無尽期。　　　柳絮　郎に随い尽期　無し 　　柳絮詞（三） 乱点新粧払畫眉。　　　乱点　新に粧い　畫眉を払う 玉楼春尽倚欄時。　　　玉楼　春尽きて欄に倚る時 随風乍可沾泥死。　　　風に随い乍ち泥に沾て死すべき 莫作浮萍逐水移。　　　浮萍と作り水を逐て移す莫れ 　　無花 客裏無花獨倚楼。　　　客裏　花無く　獨り楼に倚る 討春無計恨悠悠。　　　討春　計無く　恨み悠悠 無花亦有便宜處。　　　花無く　亦た便宜の處あり 省却花飛一段愁。　　　花飛　一段の愁を省却する 　　反東坡洗児詩 坡公養子怕聡明。　　　坡公子を養いて聡明を怕れる 我為痴獣誤一生。　　　我れ痴獣が為　一生を誤る 還願生児猾且巧。　　　還た願う生児の猾して且つ巧なるを 鑽天驀地到公卿。　　　鑽天　驀地　公卿に到る 　　宋比玉将行留別和詩（一） 三杯自可觀觴政。　　　三杯　自ら觴政を觀る可し 一日那能廃酒軍。　　　一日　那ぞ能く酒軍を廃す 莫道酔卿無史牒。　　　道う莫れ酔卿　史牒無しと 酒家南董定推君。　　　酒家　南董　定て君を推さん 　　宋比玉将行留別和詩（二） 手自鳴琴客善歌。　　　手に自ら鳴琴を鳴らし　客　善く歌う 淋漓溌墨酒邊多。　　　淋漓たる溌墨　酒邊　多し 瓊花珠玉如相待。　　　瓊花　珠玉　相い待するが如く 便似当年老鉄過。　　　便ち当年　老鉄過に似たり 　　柳枝辞 離別経春又隔年。　　　離別　春を経て　又た年を隔つ 揺青漾碧有誰憐。　　　揺青　漾碧　誰有りて憐む 春來羞共東風語。　　　春來　東風と共に語るを羞じる 背却桃花獨自眠。　　　桃花に背却して獨り自ら眠る 　　渭南梁生為余写真題二絶句　（一） 畫得漁翁貌不肥。　　　漁翁　貌の肥えざるを畫き得て 春愁鶴髪正依稀。　　　春は愁う鶴髪　正に依稀たり 君家渭水南頭住。　　　君が家　渭水　南頭に住す 為我平添旧釣磯。　　　我が為に　旧釣磯に平添する 　　雑憶詩　（一） 海燕西飛不転頭。　　　海燕　西に飛んで頭を転せず 河中流水却東流。　　　河中の流水　却って東流する 莫愁湖上春愁女。　　　莫愁湖上　春愁の女 総為愁多字莫愁。　　　総て愁い多きが為に莫愁と字す 　　雑憶詩　（二） 夢裏相遇覚又分。　　　夢裏　相遇て覚めて又た分つ 夢闌無那涙紛紛。　　　夢闌にして那んぞ無らん涙紛紛たり 如今夜短何曽睡。　　　如今　夜短く　何ぞ曽て睡らん 贏得通宵不夢君。　　　贏ち得たる通宵　君を夢みず 　　陌上花樂府三首　（一） 陌上花開正掩扉。　　　陌上　花開いて正に扉を掩う 茸城草緑雉媒肥。　　　茸城　草緑て雉媒　肥え 狂夫不合堂堂去。　　　狂夫　合に堂堂と去らざるべし 小婦翻歌緩緩帰。　　　小婦　翻歌　緩緩して帰る 　　禊後五日浴湯池留題（一） 山比驪山湯比香。　　　山は驪山に比し　湯は香に比す 承恩並浴少鴛鴦。　　　恩を承る　並び浴す　鴛鴦は少く 阿満果是風流主。　　　阿満果是れ風流の主 妃子應居第一湯。　　　妃子　應に第一の湯と居なるべし 　　禊後五日浴湯池留題（二） 沐浴頻看称意身。　　　沐浴　頻に看る　意に称うの身 刈蘭贈薬想芳春。　　　蘭を刈り薬を贈る　芳春を想う 憑将一掬香泉水。　　　将に一掬　香泉の水に憑るべし 噴向茸城浣玉人。　　　噴て茸城に向かい玉人を浣う 　　代恵香答 凰鳥高飛與鳳期。　　　凰鳥　高飛し　鳳と期す 差池一燕敢追随。　　　差池　一燕　敢て追随 桃花自趁東流水。　　　桃花　自ら東流の水を趁う 管領春風任柳枝。　　　春風に管領　柳枝に任す 　　燈下看内人挿花戯題　（一） 水仙秋菊並幽姿。　　　水仙　秋菊　幽姿に並ぶ 挿向磁瓶三両枝。　　　挿して磁瓶に向かう三両枝 低亜小窓燈影畔。　　　低亜　小窓　燈影の畔 玉人病起薄寒時。　　　玉人　病起す薄寒の時 　　燈下看内人挿花戯題　（二） 幾朶寒花意自�閨B　　　幾朶の寒花　意　自ら�閧ﾈり 一枝叢雑已爛斑。　　　一枝　叢雑　已に爛斑 憑君欲訪瓶花譜。　　　君に憑て瓶花の譜を訪んと欲す 只在疎燈素壁間。　　　只だ疎燈は素壁の間に在り 　　丙申春就医秦淮寓丁家水閣浹両月臨行作 苑外楊花待暮湖。　　　苑外の楊花　暮湖に待つ 隔渓桃葉限紅橋。　　　渓を隔つ桃葉　紅橋に限る 夕陽凝望春如水。　　　夕陽　凝望　春　水の如し 丁字簾前是六朝。　　　丁字簾前　是れ六朝 　　題鄒臣乕画扇 大痴吹笛度秦関。　　　大痴　笛を吹き　秦関を度る 鄒子仙遊又不還。　　　鄒子　仙遊　又た還らず 破墨烟巒餘黯淡。　　　破墨　烟巒　黯淡を餘す 夕陽紛本在虞山。　　　夕陽　紛本　虞山に在り 　[目次] 　　　　　　　　Copyright (C) 2001-2003　　　　石九鼎の漢詩館 　　　　　　　http://www.ccv.ne.jp/home/tohou/jiadao17.htm 　　　　　　　このページへのリンクはj自由です。無断コピーは禁止します