・ 李陵
         與蘇武詩(三)首之一

嘉会難再遇。           嘉会は再び遇い難し
山載為千秋。           山載 千秋と為らん
臨河濯長纓。           河に臨み長纓を濯へば
念子悵悠悠。           子を念いて悵として悠悠たり
遠望悲風至。           遠く望べば悲風至り
対酒不能酬。           酒に対して酬ゆる能はず
行人懐往路。           行人 往路を懐う
何以慰我愁。           何を以てか我が愁を慰めん
獨有盈觴酒。           獨り觴に盈つるの酒有るのみ
與子結綢繆。           子と綢繆を結ばん

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楽しい会合は二度と得難く
別れては三年も千歳のように長く感じるようになる
清らかな河の岸に行き
冠の纓を洗って憂いを洗い流そうとするが
君を思う心は傷み憂い、流れる水と同じように果てし無い
立って遠くを眺めれば、秋風が悲しい音を立てて吹いて来る
離別の酒宴に盃を前にしながら、君に勧めることもできない
旅たつ君は行くさきの道のことを考えているようだが
何を以って私のこの愁いを慰めよう
ただここには盃にみちた酒がある
宴を盛り上げて君と解けない親密な友情を結ぼうではないか

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李陵(−前74) 字は少卿。侍史建章監となり、後騎都尉となり匈奴に敗れ、降って右校王と為り客死した(漢書)。射を善くし、人に対して謙譲で部下の士にも慈愛ある名将であった。蘇武と仲が好く、武が匈奴に使いする時にこの詩を贈ったと言われ、五言の詩は陵から始ったと伝えられる。一説には蘇武が漢に帰ろうとする時に贈った詩とも伝えられる。


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