玄
         和班氏詩一首 (班固氏に和す詩一首)
秋胡納令室。      秋胡 令室を納れ
三日宦他郷。      三日 他郷に宦す
皎皎潔婦姿。      皎皎たり潔婦の姿
冷冷守空房。      冷冷として空房を守る
燕婉不終夕。      燕婉 夕を終へず
別如参與商。      別るること参と商の如し
憂来猶四海。      憂の来るは猶を四海のごとし
易感難可防。      感じ易く 防ぐ可き難し
人言生日短。      人は言う生日短しと
愁者苦長夜。      愁うる者は夜の長きを苦しむ
百草揚春華。      百草 春華を揚げ
攘腕採柔桑。      腕を攘げて採柔桑を採る
素手尋繁枝。      素手 繁枝を尋ねるも
落葉不盈篋。      落葉は篋に盈たず
羅衣翳玉体。      羅衣 玉体に翳る
廻目流彩章。      目を廻らせば彩章流る

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秋胡は良い妻を娶り
三日目で他国へ仕官の身となった
妻の潔婦は真っ白く光る明月のような姿
彼女は夫と別れて冷えびえした気持ちで、うつろの部屋を守ることになった
むつみ合うたのも束に間
参と商との星のように別れ別れになってしまった
無限の憂いは四海の水の如く
ただ感じ易いのみで防ぐすべもない
人はこの世に生きる日の短いのを、かこつけるけれども
心に愁いを抱くものには、夜の長いのが辛い
春になって、いろいろの草に花が咲くころ
潔婦は袖をかかげて、しなやかな桑の葉をつみとる
真っ白い手で葉の繁った枝をさがして摘むのが
摘み落とされる葉は竹かごには一杯にならぬ
薄絹衣は美しい体をおおうている
彼女が瞳を返せば、あたりに光の彩が流れるようだ
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傳玄(217-278) 字は休奕。陝西省の人。貧困のうちに少年時代をすごしたが、晉の武帝に仕えて散騎常侍、司隷校尉(首都の警備長官)となり、子爵に封ぜられた。博学であったが、剛直の人で、人を容れなかった。その詩は多く累句を用い、楽府に長じる。



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