王羲之
         蘭亭集詩二首之一
仰視碧天際。     仰いで碧天の際を視
俯瞰清水濱。     俯して清水の濱を瞰る
寥闃無涯觀。     寥闃として涯觀なく
寓目理自陳。     目を寓すれば理自ら陳ぶ
大矣造化工。     大なるかな造化の工。
萬殊莫不均。     萬殊も均しからざる莫し
群籟雖参差。     群籟 参差と雖も
適我無非新。     我に適して新に非ざる無し

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仰いで碧空のはてを見
伏して清らかな川の岸を見下ろすと
物の影も音も無くしずかで自然の眺めは無限である
目に見えず音もない無限な宇宙の本体が、そこに感じ悟られるように思う
眺めるとそれ等の自然物に道理が自然と広く行われているのがわかる
大なるかな、萬物を造り変化する者の技術よ
あらゆる殊なる現象もすべて無なる本体、即ち道なるものの現われであると言う点で均しくないものは無いのである。万有は一つの無の現象であるからである
多くの自然の物音を籟に喩えると、その音はまちまちではあるけれど
私には全て気に入って、新しい生き生きとした調子のものに感じられる
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王羲之(321-375) 字は逸少。山東省の人。晉の名家の出。詩文に優れ、特に書に於いては古今独歩の名筆である。世に王右軍と称する。永和九年三月三日会稽山陰の蘭亭に会し、曲水流觴の宴を催す、孫綽・王彬・謝安など41人、皆詩を賦して羲之がその序を作った。

これを「蘭亭集序」と言い、また「蘭亭記」とも題する。絶代の名品と言われ、その文章もまた秀作である。その詩には自然の風物に対してその人生観が投影されていると伝えられる。他の一首は四言詩である。



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