漢魏六朝詩選  (20)                     石九鼎の漢詩館

    鮑 照                     
         擬行路難十八首の一
瀉水置平地。         水を瀉いで平地に置けば
各自東西南北流。      各自東西南北に流る
人生亦有命。         人生にも亦 命有り
安能行歎復坐愁。      安んぞ能く行きては歎じ復坐しては愁へん
酌酒以自寛。         酒を酌んで以て自ら寛うし
挙杯断絶歌路難。     杯を挙げて断絶して路難を歌う
心非木石豈無感。     心 木石に非ず 豈に感無からんや
呑声躑躅不敢言。     声を呑んで躑躅して敢へて言はず

 ◇人生の悲痛な運命の愁い悲しみに耐えかねて、自ら慰め飲む酒に歌う「行路難」

      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

水を平地にそそげば、
水は各々勝手に東西南北に流れて行く
人生のも各自の運命がある
どうして歩き歎き坐しては愁えると言うように絶えず悲しんでいられよう、
そこで、酒を酌んで自分自身を慰め
杯を高く上げて飲み心も断ち切れるような悲痛な気持ちで「行路難」を歌う
然し、心は木や石のように、なぜ感情がないものであろうか
歌う中にも感概極り声を呑み、(躑躅)足踏みして、悲しみをこらえ、物も言わないでいる。 実に、人生行路は悩み多いものである。

   ・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・

鮑照(410頃〜465)。山東省の人。中書舎人、前軍参軍、記室等に任じたが、乱兵の為に殺された。六朝時代は貴族制度社会で寒門出身の鮑照は孝武帝の出仕以外を除けば、ほとんど各王国の侍郎や参軍、各地の県令として地方を転々とした。官途は恵まれたものでは無かったが鮑照は才能と学問でその名を知られた。

特に樂府が有名である。「文選」に八首の樂府詩が採られていて、秀作が多い。

鮑参軍集(鮑明遠集)」十巻がある。