漢魏六朝詩選  23                       石九鼎の漢詩館

   簡文帝   

楊柳乱成糸。   楊柳乱れて糸を成し
攀折上春時。   攀きて折る上春の時
葉密鳥飛碍。   葉密にして鳥の飛ぶこと碍げられ
風軽花落遅。   風軽くして花の落つること遅し
城高短簫發。   城高くして短簫發し
林空畫角悲。   林空しくして畫角悲しむ
曲中無別意。   曲中に別意無く
併是為相思。   併せて是れ相思と為す

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
旅行く人を送る意味を主題としたもの。柳の枝を折って、旅行く人に贈って別れるのが慣例だった。

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
楊柳が茂り乱れて糸のようだ。
これを引き寄せて折る時はまさに早春だ
柳の葉は密で、その為に鳥の飛ぶのも妨げられる
軽い風がそそと吹くので、花の散るのが遅い
城壁は高く聳え、守備の人が短簫を吹くのが聞こえはじめる
淋しい林では畫角を悲しく吹いている
その曲には他の意味が奏でられているのでは無く
いずれも共に、別れた後も想い慕って忘れない故郷の人の心を歌った「折楊柳」の曲であった。

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
簡文帝。(?〜551)名は綱、字を世(王+賛)セイサン。武帝の第三子。蕭網。文才を以って識られ早熟の天才で六歳にして詩を作ったと言う。詩は艶な美しいものを好んで作り、「佳人の紅牀の如く、垂柳の美色の如し」と称せられ、当時「宮体」と呼んだ。昭明太子簫統が崩じて皇太子となり。

即位して大宝と改元したが、二年に侯景が叛いて弑した。「折楊柳」「臨高臺」「江南曲」「夜夜曲」など秀作が多い。