漢魏六朝詩選  25                       石九鼎の漢詩館

  范 雲

  之零陵郡次新亭
江干遠樹浮。    江干に遠樹浮ぶ
天末孤煙起。    天末に孤煙起る
江天自如合。    江天 自ら合するが如く
煙樹還相似。    煙樹 還た相い似たり
滄流未可源。    滄流 未だ源ね可からず
高帆去何巳。    高帆 去って何か巳まん


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長江の岸に遠くの樹が浮ぶように見える
遠く空の果てに一筋の煙が立ち上がっている
長江の水と天空とが、一つに合わさっているようだ
長江に立ち上る煙靄と岸辺の遠樹の影が一体となり区別ができない
滄い水の流れは、どこまでも続くが如く、未だ源を尋ね極めることができない
この大江に高く帆を上げて行く我が船も、旅を続けて行くが、何時止めるか、果てし無き旅を行くようで心もと無い。

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長江と天空と煙樹とを分別描写し、静と動との変化する美を捉える。
詩全体の中に景色と物体は何も無く、江天と煙樹だけの世界に涛涛と流れる長江の中、
行く船の果て無き旅情を歌い上げる。動感と余情がただよう一首。
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范雲・(451〜503)字は彦龍。この詩は零陵郡に赴任する途中、新亭という場所で宿泊した時、
長江の旅情を詠んだものと言う。范雲は筆を下せば直ちに詩文となり、才筆があったと伝える。