漢魏六朝詩選  28                       石九鼎の漢詩館

  ゆ信     ゆ (广+臾)信

  山 齋
石影横臨水。  石影 横って水に臨み
山雲半繞峰。  山雲 半ば峰を繞る
遙想山中居。  遙かに山中の居を想う
懸知春酒濃。  懸く春酒の濃きを知る

・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  奉和詠舞    詠舞に奉和する
洞房花燭明。   洞房 花燭明かなり
燕餘双舞軽。   燕餘 双舞軽し
頓履随疎節。   履を頓して疎節に随がい
低鬟逐上声。   鬟を低れ上声を逐う
歩転行初進。   歩転じて行きて初めて進む
衫飄曲未成。   衫飄がえり 曲だ成らず
鸞回鏡欲満。   鸞回りて鏡 満たんと欲す
鶴顧市応傾。   鶴顧りみて市 応に傾くなるべし
已曽天上学。   已に曽て天上に学ぶ
何似世中生。   何ぞ似ん世中に生ずるに

 ・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
奥深い房に華やかな燭火が灯される
燕餘の美女が身軽に舞う
履を「トン」と踏みならすのは、疎ばらな拍子に随う時
まげを低く垂れるのは、歌の上声につれ唱うとき
歩が向きを換えると足の進みが前に出る
衫の袖が飄がえり、曲はまだ終らず
鸞鳥のように、くるくると回ると、鏡一杯になるかと思われる
鶴のように振り返ると、全市の人もそれにつれて、なびく
彼女らは、曽つて天上で学んだもので、
此の世のものとは思われない。

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・α・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ゆ信 『ゆ(广+臾)信』 (512〜580年)字は子山、河南省の人。南北時代、北周の詩人。
駢儷体にすぐれた。徐陵と名をひとしくした。詩は梁にあっては華麗。北周になると凄愴な気を帯びた詩に変化した。沈痛にして人を感動させ、風骨のある詩風には杜甫も推服したと伝える。
六朝末期の大詩人であった。特に対句の多い句調は、初唐の四傑の先導をなしたと言われる。