巍・ 魏文帝
         雑詩二首

漫漫秋夜長。     漫漫として秋夜長く
烈烈北風涼。     烈烈として北風涼し
展転不能寐。     展転として寐る能はず
披衣起彷徨。     衣を披き起って彷徨す
彷徨忽已久。     彷徨して忽として已に久し
白露霑我裳。     白露我がを霑す
俯視清水波。     俯して清水の波を視る
仰看明月光。     仰ぎて明月の光を看る
天漢廻西流。     天漢廻り西に流れ
三五正縦横。     三五正に縦横
草蟲鳴何悲。     草蟲鳴いて何ぞ悲しい
孤鴈獨南翔。     孤鴈獨り南に翔る
欝欝多悲思。     欝欝として悲思多く
緜緜思故郷。     緜緜として故郷を思う
願飛安得翼。     飛ばんと願へども安んぞ翼を得ん
欲済河無梁。     済らんと欲すれそも河に梁無し
向風長嘆息。     風に向かい長嘆息すれば
断絶我中腸。     我が中腸を断絶す

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

秋の夜は長く
烈しい風は涼しい
寝らねぬままに、寝返りをうつ
やがては、起きて上着を羽織り歩き廻る
歩くうちに、忽ち、もう時が久しく
白露が私の裳を霑す
伏しては清らかな水の波を視る
仰いでは明月の光を看る
天の河は廻って、西の方に流れて行く
星は三つ五つと散らばって見える
草の虫の鳴く音は何と悲しいことだろう
群を離れた一羽の鴈が独り南に翔ける
鴈は自分に似て故郷を離れて南征する
心は塞ぎ悲しみが多い
絶えざる糸のように、ひっきり無しに故郷を思う
飛んで帰りたいがどうして翼を手にいれよう
河を渡ろうと思ったが、橋が無いと同じ様に
故郷の方から吹く風に向って
長い嘆息を吐くと
私の腸は悲しみの余り絶ち切れそうである
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
文帝曹丕(187-226) 字は子桓、武帝の長子。幼少より文学を好む、性質は優柔で、詩風も父の勇健なのに似ない。「燕歌行」「短歌行」「寡婦」など傑作がある。「文章は経国の大業、不朽の盛事なり」といって文学を尊重した。漢の将軍として転戦し父曹操が魏王となると太子となる、後帝位に上り黄初と改元した。在位七年、文帝と諡した。



                  Copyright (C) 1999-2004
                    石九鼎の漢詩舘
               thhp://www.ccv.ne.jp/home/tohou/kangi5.htm
        このページのリンクは自由です。無断コピーは禁止します