阮籍
        詠懐詩 十七首之一

天馬出西北。      天馬は西北より出づるも
由来従東道。      由来 東道に従う
春秋非有託。      春秋 託まる有るに非ざれば
富貴焉常保。      富貴も焉ぞ常に保たん
清露被皐蘭。      清露は皐の蘭を被い
凝霜霑野草。      凝霜は野草を霑す
朝為媚少年。      朝には媚少年たれども
夕暮成醜老。      夕暮には醜老と成る
自非王子晉。      王子晉に非ざる自りは
誰能常美好。      誰か能く常に美好なるべき

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天馬はもともと西北大宛国の産であるが
やがては遂に東方漢国に来帰するように万物一つの処に安住することは出来ない

歳月は循環して止まることはないように
人生の冨貴も常に保持し得るものではない
春の清らかな露が沢べの蘭を潤し
秋の霜は凝って野の草を枯らす
朝には美しい少年も
夕べには忽ち醜い老人となりはてる
仙人王子晉の如くでないかぎり
人は誰でもその美を長く保つことは出来ないのである
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阮籍(210-263)字は嗣宗、河南省の人。父は「建安七子」の一人。籍は容貌も堂堂として志気は勝れ、学識教養共に広く深かった。大将軍司馬昭は子炎のため婚を阮籍に求めたが、籍は六十日酔い続けたので縁談を進めることが出来ず止めたと言う 後に従事中郎となり、歩兵の厨に美酒が多いと聞き、求めて歩兵校尉となった。彼は礼俗を顧みず同士七人と修武県付近に集り清談するのを好んだ「竹林七賢人」の首謀の一人。籍は音楽、特に琴を愛し、人の欠点を言わず、ただ好むと人を黒目で迎え、礼俗の士を白眼で見た。これを青白眼と言う。




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