嵆 康 (223~ 262)
字は叔夜、譙国銍。(河南省夏邑)の出身。竹林七賢人の一人。叔夜玉山。奇才奇智に富み、遥に衆人に抜きんじていた。風采容儀は優れ、詞気気象美しく、最も老荘を好み、養性服食の事を修め又,よく琴を弾じ詩を詠じて自ら楽しみ、山沢の遊びを好んだ。嵆康は自分の形体を土木の様に軽んじ自ら飾ることをしなかった。世人は彼の天成の素質が威儀ある龍鳳のようで、衆人とは全く異なっていると言った。

広く書史を覧て萬事に兼ね備え通じていた。魏の皇室の女性と結婚し、中散太夫に拝せられた。同格で交際する人物は阮籍と山涛だけで、末席に連なり交際したものは、向秀、劉伶、阮咸、王戎の四人である。共に竹林の遊を為した、世説には叔夜の人物は気高く、恰も一本の松が高く厳頭に独立するようで、又、酒に酔うて傾ける姿は偉大で、玉山が丁度、頽れるようだ。≪叔夜之為人。嵓嵓若孤松之独立。其之酔也傀俄。若玉山之将頽≫と書いてある。然し、康は司馬昭に累せられて刑死した。


名月の夜、友人の草廬を訪ね、飲酒・放歌。共に虚無自然の道を楽しむことを叙したもの。
   
雑 詩
微風清扇    微風 清く扇ぐ
雲気四除    雲気 四に除る
皎皎亮月    皎皎たる亮月
麗于高隅    高隅に麗ける
興命公子    興って公子に命じ
携手同車    手を携えて車を同じゅうす
龍驥翼翼    龍驥翼翼として
揚鑣踟蹰    鑣を揚げて踟蹰す
粛粛宵征    粛粛として宵は征き
造我友盧    我が友の盧に造る
光灯吐輝    光灯 輝きを吐き
華幔長舒    華幔 長く舒ぶ
鸞觴酌醴    鸞觴 醴を酌み
神鼎烹魚    神鼎 魚を烹る
絃超子野    絃は子野に超える
歎過緜駒    歎は緜駒に過ぐり
流詠太素    太素を流詠し
俯讃玄虚    俯して玄虚を讃ず
孰克英賢    孰か克く英賢なる
與爾剖符    爾と符を剖かん
「詩語」
(皎皎)=月の明らかなこと。
(踟蹰)=穏やかに行くこと。
(粛粛宵征)=毛詩、召南、小星篇の語。
(華幔)=霊鳥の模様を刻した盃。
(醴)=うまい酒、又あまざけ。
(子野)=春秋時代の晋の楽師。音を審らかにして、吉凶を占ったと言う。
(緜駒)=戦国時代の斉の人。歌の名手。孟子、告子下篇に「緜駒高唐に処り、斉右善く歌う」とあり。
(太素・玄虚)=老子ぼ虚無の道。共に自然の大道を指す。

(訳文)
そよ風が吹いて、雲は四方に散じ、白く輝く名月が高城に見える。この良夜に乗じ、公子を誘い車を共にし、馬を走らせ夜道を進み、我が友の草蘆を尋ねた。
灯火輝く帳に、杯を交わし美酒を飲み交わし、鼎には魚を煮て食う。時に絃歌を奏すると、琴は古の子野よりも巧みに、歌は緜駒にも勝っている。
虚無自然の道を詠歌する。この世に誰か英賢の士が、居るならば、共にこの楽しみを同じくしたい。




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