古詩十九首    其の十六  (凛凛歳云暮)

凛凛歳云暮。   凛凛として歳云に暮れ
蜾帖夕鳴悲。   蜾帖 夕べに鳴き悲しむ
涼風率巳厲。   涼風率はかに巳に厲しく
遊子寒無衣。   遊子 寒くして衣無し
錦衾遣洛浦。   錦衾 洛浦に遣りしも
独宿累長夜。   独り宿ねて長夜を累ね
夢想見容輝。   夢に想いて容輝を見たり
良人惟古歓。   良人 古き歓びを惟い
枉駕恵前綏。   駕を枉げて前綏を恵ぐむ
願得長巧笑。   長く巧笑スルを願い得て
携手同車帰。   手を携えて車を同じくして帰る
既来不須臾。   既に来たりし須臾ならずして
又不処重闈。   又重闈に処らず
亮無晨風翼。   亮に晨風の翼が無ければ
焉能凌風飛。   焉んぞ能く風を凌いで飛ばん
盼眜以適意。   盼眜 以って意に適し
引領遥相睎。   領を引いて遥かに相睎む
徒崎懐感傷。   徒崎して感傷を懐き
垂涕沾双扉。   涕を垂れて双扉を沾をす

詩語解。
  凛凛=寒いこと
  蜾帖=ケラ。虫の名前。
  洛蒲=落水の入り口。
  枉駕=わざわざ来訪する。
  容輝=夫の容貌のこと。
  恵前綏=前に花嫁として向かえた時,車に駕する為の引き網を夫が妻に手渡されたこと。
  願得長巧笑=長く何時までも笑顔で侍することを願う。
  重闈=門を幾重も潜り入いった奥の部屋。婦人の室の門。
  盼眜=幾度も繰り返し眺める。
  適意=満足すること。
  徒崎=低回する。立去り難いこと。
詩意。 
 夢の中で新婚の思い出を述べて,その楽しい過去と現実の対比を寂寥感と孤独の寂しさを効果的に歌う


  01/15/2008   石九鼎