黄公望詩選
南宋・咸淳五年(1269)-元・至正14年(1354) 江蘇常熟県の人。字は子久。大癡、一峯道人、大癡学人と号する。本姓は陸。名は堅。父母が早世により黄氏の子となる。かって浙西粛政廉訪使徐琰の書吏となる、のちに大都に至り中書省監察御使院の官につくが誣告されて獄に下された。五十歳以後、江南に帰り大癡と号する。当時の新興道教の全真教に身を投じた。詩壇の大家、楊維楨や高名な文人、張雨らと親交を結んだ。画は富春山居などの山水によって元末四大家の筆頭にあげられる。詩集に大癡道人詩鈔がある。

   題董北苑画
一片間雲出岫来。     一片の間雲 岫を出で来る
袈裟不染世間埃。     袈裟は世間の埃に染めず
独懐陶令門前柳。     独り陶令が門前の柳
青眼偏逢恵遠開。     青眼 偏えに恵遠に逢うて開きしを懐う

  題蘇東坡竹
一片湘雲湿未乾。     一片の湘雲 湿って未だ乾かず
春風吹下玉琅玕。     春風 吹き下る 玉琅玕
強扶残酔揮吟筆。     強いて残酔を扶けて 吟筆を揮う
帘帳蕭蕭翆雨寒。     帘帳 蕭蕭として 翆雨寒し

  題己画江干帆影図
高閣崔嵬俯碧江。     高閣 崔嵬たり 碧江を俯す
布帆遠趁鳥飛双。     布帆 遠く鳥の飛び双ぶを趁う
寒煙古木攅峰秀。     寒煙 古木 峰秀に攅まる
暗度晴光落短窗。     暗かに度る 晴光の短窗に落ちるを

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