康有為 (1858~1927)

原名は祖詒、字は広厦。号は長素。広東省南海の出身。光緒21年(1895)に進士になり数次にわたり上書などに拠って光緒帝の信任を得る。戊戌の年(1898)に抜擢されて新法の実現を図ったが西太后ら保守派のクーデターにより3カ月余で失敗した。

政変に遭った康有為は、その年の陰暦九月、日本への亡命に成功し、欧米・南アジアの諸国を転々とした。

  戊戌八月国変紀事(其の一)
歴々維新夢。  歴々たり維新の夢
分明百日中。  分明たり百日の中
荘巌対宣室。  荘巌に宣室に対するは
哀痛起桐宮。  哀痛に桐宮より起きる
禍水滔中夏。  禍水は中夏に滔り
堯台悼聖躬。  堯台は聖躬を悼む
小臣東海涙。  小臣 東海の涙
望帝杜鵑紅。  望帝 杜鵑の紅

此の詩は康有為の弟子でもあり、右腕でもあった梁啓超によると、日本亡命直後、箱根での作と言われる。孔子を教学し古典解釈さらに仏教や西洋思想の教養を加え変法維新の指導らしい堂々たる詩風は読む人を康有為の胸中察するものあり感動させる。

  五言古詩
晨登榧蘇榧。  晨に榧蘇榧に登る
中午飯山麓。  中午に山麓に飯する
酒楼慿高処。  酒楼 高き処に慿り
開窓縦遊目。  窓を開き 遊目を縦しいままにする
海山両門峙。   海山は 両つの門のごとく峙ち
海波浩深緑。  海波は浩として深き緑
島嶼蕩煙点。  島嶼は煙点に蕩き
帆檣渺相属。  帆と檣は渺として相い属する
楼閣走丘陵。  楼閣 丘陵に走り
臨海環列屋。  臨海 屋に列なり環らす
波濤拍石岸。  波濤 石岸を拍く
風起奏笙筑。  風起こりて笙筑を奏す
人家六十萬。  人家 六十萬
煙樹弥望縟。  煙樹 望みに弥ちて縟し
葡萄梅杏李。  葡萄と梅と杏と李と
累々枝頭熟。  累々と枝頭に熟す
都会二千年。  都会は 二千年
英雄戦事酷。  英雄は 戦事は酷なり
徳法與奥班。  徳と法と奥と班と ★特はドイツ。法はフランス。奥はオーストリー。班はハンガリー
争覇来逐鹿。  覇を争い来りて鹿を逐う
近起焼炭党。  近ごろ起こる炭を焼くが党
竟成統一局。  竟に統一の局を成す
雖歴火山災。  火山の災を歴しと雖ども
豈捨勝地曲。  豈に勝地の曲かなるを捨てんや
山海控要妙。  山海 妙を要(かなめ)と控える
闤闠偉瞻矚。  闤闠 瞻矚の偉いなり    ★闤闠は街街
吾華與相比。  吾が華にて與に相い比すれば
芝罘猶少縮。  芝罘は猶を少し縮し     ★芝罘は山東省の名港
大風波忽蕩。  大風の波は忽ち蕩ぎ
炎日正当旭。  炎日は正に旭に当る
長嘯眺大宇。  長嘯す大宇を眺め
天海在一掬。  天海 一掬に在り
引杯且浩然。  杯を引き且つ浩然たり
旅人登快足。  旅人 快足に登る
支那来遊者。  支那より来る遊ぶ者
吾先誰為続。  吾ぞ先なり誰か続くを為すや