亥　軒 永山亥軒名平字政時別号椿園加賀石川県人。文化十二年乙亥生 　　　　　射山田新川評定拙詩 文章品目蓋棺定。　　　　文章の品目　棺を蓋して定まる 不恨生前無賞音。　　　　生前　賞音　無きを　恨らまず 豈料今朝誉余木。　　　　豈に料らんや　今朝　誉余木 有人誤認作清琴。　　　　人は　誤まりて　清琴を認め作す有り 　　　　　　又 世上謾評毛与皮。　　　　世上　謾に評す　毛と皮と 逸才何必在黄驪。　　　　逸才　何ぞ必らずしも　黄驪に在らんや 朝来伯楽方過冀。　　　　朝来　伯楽　方に冀を過ぐる 昨日駑駘変作驥。　　　　昨日の駑駘　変じて驥と作らん 　　　　　悼　亡 梅花方発君方病。　　　　梅花　方に発き　君方に病む 柳絮已飛君已仙。　　　　柳絮　已に飛び　君　已に仙 往事茫茫恍如夢。　　　　往事　茫茫　恍として夢の如く 清香一炷涙澘然。　　　　清香　一炷　涙　澘然たり 　　　　　又 緑陰漠漠夏初天。　　　　緑陰　漠漠　夏初の天 身似鱞魚夜不眠。　　　　身は鱞魚に似て　夜　眠れず 愁緒纒綿何日解。　　　　愁緒　纒綿たり　何れの日にか解す 無端枕上聴新鵑。　　　　端無く　枕上　新鵑を聴く 　　　　雑　詩 誤𨂻禍機逢罪譴。　　　　誤りて禍機を𨂻み　罪譴に逢う 始知官路険於山。　　　　始めて知る　官路　山よりも険 杜門只合安貧素。　　　　門を杜し　只だ合に貧素に安ずるべし 畢竟功夫在此間。　　　　畢竟　功夫　此の間に在り 　　　　　又 不撼幽居閑竹関。　　　　撼せず幽居　竹関を閉ざす 但違定省涙潜潜。　　　　但だ定省を違い　涙潜潜 恍然堪喜昨宵夢。　　　　恍然　喜ぶに堪える　昨宵の夢 阿母膝前承笑顔。　　　　阿母　膝前　笑顔を承けたまる