学 齋

津田学齋名正臣字仲相別号香ー釣人紀伊人天保十一年庚子生

     頓宮杜宇
春過無復翠華還。    春過て 復た翠華の還る無く
杜宇声迷煙樹間。    杜宇声迷う煙樹の間
壇上落花人不払。    壇上落花 人 払らはず
二千年後只青山。    二千年後 只だ青山

     伽羅夜雨
洞口樹深雲自帰。    洞口樹深して雲自ら帰
江干秋老鳥空飛。    江干秋老て鳥空く飛ぶ
伽羅山下蕭条晩。    伽羅山下 蕭条の晩
雨裏岩灯一点微。    雨裏岩灯 一点微なり

     竹田途上
遥碧雲寒茅幾層。    遥碧雲寒く 茅 幾層
春風二月未消冰。    春風二月 未だ 冰を消さず
夕陽下馬竹田路。    夕陽 馬を下る 竹田の路
泣拝泉山新御陵。    泣いて拝す泉山 新御陵

     吉野懐古
君王何地著瓊鑾。    君王何地か 瓊鑾を著ける
御愛山桜春又残。    御愛の山桜 春又た残す
無限東風吹有恨。    限り無き東風 吹いて恨みあり
落花陵上夕陽寒。    落花陵上 夕陽寒し

     源三位射?図
雲生腥気半空横。    雲生て腥気 半空に横る
夜色冥渫中有声。    夜色 冥渫 中に声にあり
神前一鳴天地震。    神前一鳴 天地震う
紫宸殿上月華明。    紫宸殿上 月華明かなり