鳳陽
神山鳳陽名述字古翁号三埜埜客美濃人寓京師文政七年甲甲生

    群上路上
架崖処処有人家。   崖を架して処処 人家有り
生計纔存桑與茶。   生計 纔ずかに存す 桑と茶と
春夏之交雪初盡。   春夏の交はり 雪 初めて盡
齋開二十四番花。   齋開く二十四番の花

    劉備失箸図
老奸片語似雷公。   老奸の片語 雷公に似たり
驚破英雄落落芻。   驚破す英雄 落落の芻
?識当時失匙手。   ?り識る当時 失匙の手
擁来巴蜀幾千峰。   擁し来る巴蜀の幾千峰

    赤壁後遊図
又把杯樽開笑顔。   又た杯樽を把って 笑顔を開く
風清月白旧江山。   風清く月白し旧江山
十年蹉跌官途険。   十年蹉跌たり官途の険
不似巉巌容易攀。   似ず巉巌 容易に攀るに

    病後雑吟
匹如渡海遇狂瀾。   海を渡るに 狂瀾に遇う匹如す
西泊東漂不得眠。   西泊東漂 眠を得ず
初覚朝来病魔退。   初めて覚る朝来 病魔の退くことを
居然身坐順風船。   居然 身は坐す 順風の船

    曝書
不必傾筐誅白魚。   必らずしも筐を傾けて白魚を誅せず
曝来満巻果如何。   曝し来たる満巻 果して如何
除非経史数篇外。   経史数篇を除非する外
多是人間無用書。   多くは是れ人間無用の書

    題大石氏遺盃
萬死復讎人可思。   萬死 讎を復す 人 思うべし
遺?猶宝況遺巵。   遺? 猶宝とす 況んや遺巵をや
料知酒味苦於膽。   料り知る 酒味の 膽よりも苦きことを
糸竹声中陽酔時。   糸竹声中 陽酔の時

    送窮
忍飢綴得送窮文。   飢を忍び綴り得たり 送窮の文
多謝十年同苦辛。   多謝す十年 苦辛を同じゅうることを
憐汝前程無托処。   憐む汝が前程 托処 無きを
世間漸少読書人。   世間 漸少こと読書の人