渓　琴 菊池渓琴。　名保定字子固別号海荘・紀伊和歌山之人。寛政十年戊午生。 　　　　東北平定歌 鎮府名存九百年。　　　　鎮府　名存す　九百年 断碑零落臥荒煙。　　　　断碑　零落　荒煙に臥す 山河今日復依旧。　　　　山河　今日　復た旧に依る 恩露春深靺鞨天。　　　　恩露　春深し靺鞨の天 　　　　十五夜書所見 山堂月上雨晴時。　　　　山堂　月上る　雨晴の時 促得山人閑適詩。　　　　促し得たり　山人　閑適の詩 玉兎応嫌吟筆陋。　　　　玉兎　応に嫌う　吟筆の陋なれべし 故收奇彩入雲帷。　　　　故に奇彩を收めて　雲帷に入る 　　　　己已重陽 罷官帰在碧山郷。　　　　官を罷め　帰り碧山の郷に在り 籬落蕭条野菊香。　　　　籬落　蕭条　野菊香し 児孫繞膝家人賀。　　　　児孫　膝を繞り　家人は賀ぶ 吾生七十好重陽。　　　　吾生　七十　好重陽 　　　九月十九日携児孫遊有水 桃花洞口問迷津。　　　　桃花洞口　問迷津 漸為晋人追後塵。　　　　漸く晋人の為に　後塵を追う 九月江南好風景。　　　　九月の江南　好風景 一家行楽気成春。　　　　一家の行楽　気　春を成す 　　　　又 児孫繞膝坐吟詩。　　　　児孫　膝を繞りて　坐に詩を吟ず 蓬底微風裊釣糸。　　　　蓬底　微風　釣糸を裊る 枯柳州頭看洗馬。　　　　枯柳州頭　馬を洗うを看る 水村山郭賽神時。　　　　水村山郭　神を賽する時 　　　　南遊諫瀬見善水 路傍敗菊晩香残。　　　　路傍の敗菊　晩香残す 落日青煙結暮寒。　　　　落日　青煙　暮寒を結ぶ 数里青山紅葉底。　　　　数里の青山　紅葉の底 風流野客訪清官。　　　　風流たり　野客　清官を訪う 　　　　福井老公索詩書此上左右 海曲秋高悲水煙。　　　　海曲　秋高く　水煙を悲しむ 巴歛歌起月明前。　　　　巴歛歌起る　月明の前 蘆花繚乱風吹去。　　　　蘆花　繚乱たり　風　吹き去り 飛上九重台閣辺。　　　　飛上る九重台閣の辺 　　　　再登紀三井寺大悲閣 吾是清平詩酒仙。　　　　吾は是れ清平　詩酒の仙 大悲閣上弄風煙。　　　　大悲閣上　風煙を弄す 慈雲湏惹養花雨。　　　　慈雲　惹く湏　養花の雨 載酒又浮春水船。　　　　酒を載せて　又た浮ぶ　春水の船