紅 蘭

紅蘭張夫人名景婉字道華美濃人寓平安文化元年甲子生。

     壬寅元旦
爆竹声高百鬼蔵。    爆竹声高して百鬼蔵す
満城草木向春陽。    満城の草木春陽に向かう
居然観卦爻当二。    居然観の卦爻二に当る
也自深閏窺国光。    也た深閏より国光を窺ん

     将赴勢州賦一絶
此生能得幾時休。    此生能得ん幾時か休するを
鳳泊鸞漂四十州。    鳳泊鸞漂四十州
自笑還郷蹤未定。    自笑う郷に還蹤未だ定まらず
明朝孤棹又南遊。    明朝孤棹又南遊 

     題 画
幽蘭修竹是同参。    幽蘭修竹是れ同参
窓下焚香読女箴。    窓下香を焚て女箴を読
誰道画図形似耳。    誰が道う画図形似耳と
筆端也契歳寒心。    筆端也た契す歳寒の心

    偶 成
一誠求我有童蒙。    一誠我を求めて童蒙有り
養正居然乃聖功。    養正居然乃聖功
久矣満城人??。    久しかな満城人??
遊裾冶屐漸成風。    遊裾冶屐漸く風を成す

    偶 成
臣只欺君事苟安。    臣只君を欺て苟安をこととす
子忘父母不迎歓。    子父母を忘れ歓びを迎えず
可無忠節考簾者。    忠節考簾の者 無き可けんや
総作一偏迂闊看。    総て一偏迂闊看を作す

    八坂観梅
東風一路綺羅塵。    東風一路綺羅の塵
?影釵光紛闘春。    ?影釵光紛として春を闘す
却被寒香相誘引。    却て寒香に相誘引せ被る
来尋皓皓不緇人。    来て尋ぬ皓皓不緇の人

    写所思贈同社
蘭衰菊痩復誰親。    蘭衰へ菊痩て復誰か親ん
交道多君管鮑倫。    交道多とす君が管鮑の倫なるを
履得萬奇千険了。    履き得て萬奇千険を了す
容與梁氏未亡人。    容與す梁氏の未亡人