小原鉄心 小原鉄心、名は忠寛､字は栗卿。二兵衛と称す。美濃の人、大垣藩執政。文を斉藤拙堂に、詩を梁川星巌に学ぶ。維新の際、力を王事に竭す、明治戊辰の歳、微士となり京に入る。参與、大垣藩大参事を歴任。明治五年没。年五十六。 　　　　　　　　浦賀途上 孤客案頭感慨催。　　　孤客　案頭　感慨催す 海門落日晩潮回。　　　海門　落日　晩潮回る 誰知一片武夫恨。　　　誰が知る　一片　武夫の恨 戌迹秋寒本収台。　　　戌迹　秋寒し　本収台 　　　　　　　　将入都小寺翠雨来迎於深谷駅喜賦 男児許国度崔嵬。　　　男児　国を許し　崔嵬を度る 澗雪桟雲叱馬来。　　　澗雪桟雲　馬を叱って来る 寧識春風有今日。　　　寧ぞ識らん　春風　今日あるを 花前笑把故人杯。　　　花前　笑うて把る　故人の杯 　　　　　　　　　偶　述 官海波驚雲又翻。　　　官海　波驚き　雲又た翻える 顯栄自古足消魂。　　　顯栄　古えより　消魂に足る 誰知今日微臣涙。　　　誰か知らん　今日　微臣の涙 不灑窮途灑重恩。　　　窮途に灑がず　重恩に灑ぐ 　　　文久癸亥秋、守衛皇居将帥率入輦下 臣節胸間一片存。　　　臣節　胸間　一片存す 仰観天日照乾坤。　　　仰ぎ観る　天日　乾坤を照らすを 熊羆麾下士三百。　　　熊羆　麾下　士三百 守護皇居第一門。　　　守護す皇居　第一門 　　　　　　　　春夜聴雨 客去灯残夢始醒。　　　客去り　灯残して　夢始めて醒める 茶香簾影雨三更。　　　茶香　簾影　雨三更 窓前蕉葉題詩在。　　　窓前　蕉葉　詩を題して在り 一掬閑愁檐滴声。　　　一掬の閑愁　檐滴の声 　　　　　　　　　謁楠公墓 貞珉赫赫勒功勲。　　　貞珉赫赫　功勲を勒す 稽顙碑前双淚紛。　　　碑前に稽顙　双淚紛たり 叛服無常皆是賊。　　　叛服　常なき　皆な是れ賊 始終殉国獨看君。　　　始終　国に殉じて　獨り君を看る 鄂王墓表西湖土。　　　鄂王の墓表　西湖の土 蜀相祠堂北嶺雲。　　　蜀相の祠堂　北嶺の雲 一片忠魂消不盡。　　　一片の忠魂　消し盡きず 江山千載有芳芬。　　　江山　千載　芳芬あり 　　　　　　09/03/27 　　　　　石　九鼎