林 外

広瀬林外名孝字維孝豊後人天保七年丙申生

     京師雑詠  (一)
五歳二回遊帝京。   五歳二回 帝京に遊ぶ
街頭依旧暗塵横。   街頭 旧に依って 暗塵横たう
健児争着洋夷服。   健児 争うて着る 洋夷の服
無復当年鉄杖声。   復た当年 鉄杖の声 無し 

     京師雑詠  (二)
騎兵行盡歩兵行。   騎兵行盡して 歩兵行く
紫陌風傳聲鼓声。   紫陌風傳う 聲鼓の声
一様門頭掲標札。   一様門頭 標札を掲げる栐營
家家都是列侯營。   家家 都て是れ 列侯の營

     京師雑詠  (三)
豪竹哀糸散晩風。   豪竹哀糸 晩風に散ず
溶溶鴨水画欄東。   溶溶たる鴨水 画欄の東
鎖開和戦紛紛議。   鎖開和戦紛紛の議
多在偎紅倚翠中。   多は偎紅 倚翠の中に在り

      題范蠡湖図
英雄回首即神仙。   英雄 首を回らせば 即ち神仙
身鋳黄金亦偶然。   身 黄金を鋳す 亦た偶然
春入五湖渾似画。   春 五湖に入り 渾て画に似たり
垂楊斜繋美人船。   垂楊 斜繋ぐ美人の船

      書家信後
双鯉遥遥天外通。   双鯉 遥遥 天外に通ず
唯言京洛倚春風。   唯だ言う京洛 春風に倚ると
不知東武三千里    知らず東武 三千里
身在砲声槍色中。   身は砲声 槍色の中に在り