静逸

山中静逸名献字子文三河人寓京師文政五年壬午生


      備後三郎題桜図
欲訴丹心独断腸。    丹心にして独断腸を訴えんと欲っし
賊氛圍駕夜荒涼。    賊氛 駕を圍て 夜荒涼
題桜果有天顔喜。    桜を題し 果して天顔の喜び 有り
十字春風萬古香。    十字の春風 萬古香し

      読鄭延平傳
手焚儒服誓昭回。     手ずから儒服を焚て昭回に誓う
捲土醒羶大厦?。     土を捲て醒羶 大厦?る
阿母貞魂児義膽。     阿母は貞魂 児は義膽
帯将東海日光来。     将さに東海の日光をもって帯し来るべし

      新春雑詠
紅?靄靄霽寒威。      紅? 靄靄 寒威に霽る
雪解池塘水正肥。      雪解て池塘 水正に肥たり
偏喜回陽生意満。      偏に喜ぶ回陽 生意の満を
無名細草帯春暉。      無名の細草 春暉を帯ぶ

      写 梅
長在山中豈偶然。      長く山中に在る 豈に偶然ならんや
梅花與我有深縁。      梅花と我と 深縁あり
此腸如鉄不因熱。      此の腸 鉄の如く 熱に因らず
抱雪懐冰三十年。      雪を抱き 冰を懐う 三十年

      懸崖蘭
幽蘭不與素心乖。      幽蘭 素心に乖かず
敢願他生列玉?。      敢て願わん他生 玉?に列するを
自有芳根受恩養。      自から芳根あり 恩養を受け
天風吹露満層崖。      天風 露を吹き 層崖に満つ

       所見
夕陽嵐翠湿衣濃。     夕陽の嵐翠 衣を湿して濃かなり
澗底随行野鹿蹤。     澗底 随い行く 野鹿の蹤
宛見古人図画好。     宛も見る古人 図画の好きを
俟齋芝草石齋松。     俟齋の芝草 石齋の松