石　埭 永坂石埭名時対字裒公別号夢楼主人尾張人弘化二年乙已生。 　　　　　丁字簾詩三首（一） 丁字簾詩是六朝。　　　　丁字簾詩是これ六朝 月明誰学嫰児簫。　　　　月明誰か学ぶ嫰児の簫 秋風吹蕩秦淮水。　　　　秋風吹蕩す秦淮水 惆悵何人倚画橈。　　　　惆悵何人画橈に倚る 　　　　　丁字簾詩三首（二） 青山如夢落秋潮。　　　　青山夢の如く秋潮に落つ 丁字簾詩是六朝。　　　　丁字簾詩是これ六朝 桃葉歌寒楊葉短。　　　　桃葉歌寒楊葉短し 白門残日易蕭蕭。　　　　白門残日蕭蕭易し 　　　　　　丁字簾詩三首（三） 残柳毯毯旧板橋。　　　　残柳毯毯たり旧板橋 栖鴉流水欲魂鎖。　　　　栖鴉流水魂鎖さんと欲す 阿男好句無人和。　　　　阿男の好句人の和する無し 丁字簾前是六朝。　　　　丁字簾前是これ六朝 　　　　　　双橋修禊詞 水辺剛及麗人天。　　　　水辺剛に及ぶ麗人の天 唱到桃花詞更妍。　　　　唱て桃花に到て詞更に妍なり 長記双橋修禊事。　　　　長く記す双橋修禊の事 亜枝紅映酒觴前。　　　　亜枝紅は映ず酒觴の前 　　　　　　惜春詞二首（一） 緑笑紅顰記不真。　　　　緑笑紅顰記して真ならず 三生薄倖夢如塵。　　　　三生薄倖夢塵の如く 惜春御史頭銜在。　　　　春を惜しむ御史頭銜在 誰向青楼作替人。　　　　誰か青楼に向て替人と作す 　　　　　　惜春詞二首（二） 莫問水辺楼上事。　　　　問う莫れ水辺楼上の事 也能棖触十年愁。　　　　也た能棖触す十年の愁 美人猶未帰黄土。　　　　美人猶未だ黄土に帰らず 才子従来易白頭。　　　　才子従来白頭なり易し 　　　　　　春仲臥病 葯炉経巻伴蕭条。　　　　葯炉経巻蕭条を伴う 一半春従病里消。　　　　一半の春は病里に従て消ず 五日軽寒三日暖。　　　　五日の軽寒三日の暖 殢人天気近花朝。　　　　人殢するに天気花朝に近し 　　　　　　　久沢村吊曾我兄弟墓 客涙蕭条大麓秋。　　　　客涙蕭条大麓の秋 二曽陳跡夕陽愁。　　　　二曽の陳跡夕陽愁う 寒煙蔓草無人払。　　　　寒煙蔓草人の払う無し 漠漠土香双饅頭。　　　　漠漠土香し双饅頭