松　陽 野口松陽名共字伯辰肥前人天保十三年壬寅生 　　　　　興　亡 漢殿烟深長楽柳。　　　　漢殿烟深し長楽の柳 陳宮雨冷景陽花。　　　　陳宮雨冷なり景陽の花 佳人自係興亡運。　　　　佳人自ら係る興亡の運 一種紅顔双麗華。　　　　一種の紅顔双麗華 　　　　　読史雑感 功徳南園事可疑。　　　　功徳南園事疑う可し 務観記又祐之碑。　　　　務観の記又た祐之の碑 同留白壁微瑕在。　　　　同じく白壁微瑕を留て在り 遺恨千秋筆一枝。　　　　遺恨なり千秋の筆一枝 　　　　　無題 暮檐喜鶺送声時。　　　　暮檐の喜鶺声を送る時 到手廻文是色糸。　　　　手に到る廻文是れ色糸 起捲湘簾碧雲遠。　　　　起て湘簾を捲けば碧雲遠く 怕看新月似蛾眉。　　　　看ること怕る新月の蛾眉に似たるを 　　　　　読宋記　（一） 維狼維虎陥牢中。　　　　維し狼維し虎牢中に陥 京城何日戦塵空。　　　　京城何お日か戦塵空からん 当年若問平胡策。　　　　当年若し平胡の策を問はば 神刀士勇神臂弓。　　　　神刀士勇神臂の弓 　　　　　読宋記　（二） 誰排和議払辺雲。　　　　誰か和議を排して辺雲を払う 未慊胡銓激烈文。　　　　未だ慊ず胡銓激烈の文 巨刃有光奸膽落。　　　　巨刃光有り奸膽落つ 南朝先数施将軍。　　　　南朝先ず数ふ施将軍 　　　　　屋島祠 大石為基樹為瓦。　　　　大石基を為し樹瓦を為す 荒涼無主草空秋。　　　　荒涼主無く草空しく秋なり 可憐屋島徒如屋。　　　　憐む可し屋島徒に屋と如とす 不庇翠華西狩愁。　　　　庇は不ず翠華西狩の愁