春　濤 春濤森名魯直字方大一字古愚尾張人文政二年己卯生 　　　　　　　三国港雑詞　三十八首之一 下巷柳深三弄笛。　　　　　下巷　柳深し三弄の笛 上街花白一枝簫。　　　　　上街花白し一枝の簫 使人延佇低面久。　　　　　人をして延たび佇で低面　久しからしむ 春月依依思案橋。　　　　　春月　依依たり思案橋 　　　　　　　　三国港雑詞　三十八首之二 板橋中断屐声空。　　　　　板橋　中断　屐声空し 不與当年画裏同。　　　　　当年の画裏と同じうせず 乞借?皇五色石。　　　　　?皇　五色の石を乞借して 何人為補美人虹。　　　　　何人か為に補はん美人虹 　　　　　　　　三国港雑詞　三十八首之三 傳誦妻籠詞絶妙。　　　　　傳誦す妻籠の詞絶妙 戔尊詞下笑相逢。　　　　　戔尊詞下　笑て相い逢う 一廛如許與儂住。　　　　　一廛　儂と住するを許すが如し 何望八雲垣八重。　　　　　何ぞ望まん八雲　垣八重 　　　　　　　　　三国港雑詞　三十八首之四 花枝垂泣月朧朧。　　　　　花枝　泣を垂て　月朧朧 真個難分此夜中。　　　　　真個　分れ難し　此夜の中 幾整漿牙行不得。　　　　　幾たびか漿牙を整えて　行くこと得ず 眼波能抵石尤風。　　　　　眼波　能く抵る　石尤風 　　　　　　　　　　三国港雑詞　三十八首之五 柳依依舞不禁春。　　　　　柳依依として舞て　春に禁へず 一脈新愁入暗顰。　　　　　一脈の新愁　暗顰に入る 嬌口軽吹返魂草。　　　　　嬌口　軽く吹く　返魂草 煙中幻出意中人。　　　　　煙中　幻出す意中の人 　　　　　　　　　　　三国港雑詞　三十八首之六 春帆東去海茫然。　　　　　春帆　東のかた去りて海茫然 落盡桃花別恨牽。　　　　　桃花を落盡して　別恨牽く 怱自潮頭傳好信。　　　　　怱ち潮頭より　好信を傳う 郎舟無恙到松前。　　　　　郎が舟　恙が無く　松前に到る