棚谷桂陰

棚谷桂陰。名は元全、字は元卿。別に鳳陽と号す。常陸の人、朝川善庵に師事する笠間藩主の侍医。中興の始め、微されたが就かず。明治16年没、年70.


     夜半不寝起而独酌
窄袖短衣多俗士。   窄袖短衣 俗士 多し
高冠肥馬有庸才。   高冠肥馬 庸才あり
蛍花界里治聾酒。   蛍花界里の治聾酒
大喝無人分一杯。   大喝人の一杯を分つ無し

     那須宗高射扇図
扇影飄風勁箭鳴。   扇影 風に飄って 勁箭鳴る
何唯妙技萬人驚。   何ぞ唯に妙技 萬人の驚くのみならんや
琵琶曲里双行涙。   琵琶曲里 双行の涙
也勝千軍喝采声。   也た勝る 千軍 喝采の声

     木幡途上
壑色秋深鎖紫氛。   壑色 秋深うして 紫氛を鎖す
常毛界隔小橋分。   常毛界は 小橋を隔て分る
可花比艶霜余樹。   花 艶を比する可し 霜余の樹
與鳥争飛雨後雲。   鳥と飛ぶことを争う 雨後の雲
誤路却逢幽境好。   路を誤り 却って逢う 幽境の好きに
投村聊頼獨醪酒。   村に投じて 聊か 頼る獨醪の酒
衣襟罷去紅塵汚。   衣襟 紅塵の汚を 罷い去って
且向青山見夕曛。   且つ青山に向ぅて 夕曛を見る

     同田口江村秋田参事、遊百花園
一榻先呼酔後茶。   一榻 先ず呼ぶ 酔後の茶
好将蕭散換豪華。   好し蕭散を将って 豪華に換えん
孤舟落日長堤晩。   孤舟 落日 長堤の晩
来賞秋風七種花。   来り賞す 秋風 七種の花

    09/04/05    石 九鼎