天 章

天章和尚名英字肇海別号竺堂又号杞憂庵主京師人文化十一年甲戌生

    自 嘆
炉香薫里坐無言。   炉香薫里坐して言なく
秋雨秋山昼掩門。   秋雨秋山昼門を掩う
送却書窓間日月。   送却す書窓の間日月
年光容易過中元。   年光容易に中元を過ぐ

    題星巌詩存 (一)
皮膚脱落見天真。   皮膚脱落して天真を見る
旧様何如新様醇。   旧様は何ぞ新様の醇なるに如ん
虚妄評来加一語。   虚妄に評し来て一語を加へる
江州司馬是前身。   江州の司馬是れ前身

    題星巌詩存 (二)
一寸吟胸入大千。   一寸の吟胸に大千を入る
吐来作佛吐来仙。   吐き来れば佛と作り吐き来れば仙
横拈倒用筆如払。   横拈倒用筆払の如し
便是詩家活達禅。   便ち是れ詩家の活達禅

    庚申試筆
連日堅氷封墨池。   連日堅氷墨池を封ず
不嫌融意與春遅。   嫌はず融意の春に遅きを
山僧原有山僧句。   山僧は原と山僧の句有り
懶読時人妄語詩。   読に懶し時人妄語の詩

    甲子新春 (一)
掛夢松蘿飽葆真。   夢を松蘿に掛て飽まで真を葆
寄情雲月獨怡神。   情を雲月に寄て獨り神を怡しむ
山林自有山林事。   山林は自ら山林の事有り
不問九重城里春。   問はず九重城里の春

    甲子新春 (二)
晩煙晨霧隔京城。   晩煙晨霧京城を隔つ
人與梅花雪様清。   人は梅花と雪様に清し
枕上青山新得意。   枕上の青山新得意
夢中芳草旧吟情。   夢中の芳草旧吟情