聴 秋

伊藤聴秋名士龍字起雲淡路人天保四年癸己生

       感 旧
千枝銀燭鴨之干。   千枝の銀燭 鴨之干
酔倚紅欄看牡丹。   酔うて紅欄に倚て 牡丹を看る
今日家江春寂寞。   今日 家江 春寂寞
楊花吹盡水漫漫。   楊花 吹き盡て水漫漫

       高 雄
澗道凝霜午不融。   澗道の凝霜 午融けず
鐘魚声断一山空。   鐘魚声断て一山空し
與雲対坐與雲別。   雲と対坐 雲と別る
秋寺無人尋晩楓。   秋寺 人の晩楓を尋ねる無し

       清少納言
才命相妨自古然。   才命相い妨ぐ 古しえより然り
臨風為吊美人魂。   風に臨で為に吊す美人の魂
千金駿馬空奇骨。   千金駿馬 空しく奇骨
鬼爛神焦七百年。   鬼爛神焦七百年

       偶 成
翰墨場中老伏波。   翰墨場中 老伏波
菩提坊裏病維摩。   菩提坊裏 病維摩
平生愛唱?翁句。   平生愛し唱す?翁の句
移贈無人可?何。   移し贈て人の?何んとも可き無し

       八月某夜雨宿三樹亭
一時和夢到心頭。   一時 夢に和し 心頭に到る
無限新愁與旧愁。   限り無き 新愁と旧愁と
満地虫声萬天雨。   満地の虫声 萬天の雨
去年今夜在皇州。   去年今夜 皇州に在り