植村蘆州

植村蘆州。名は正義・字は子順・後・俊利と改める。19才にして詩を大沼枕山に学び師事すること40年。枕山、寵愛するは子の如く、常に曰く:家業を継ぐものは蘆州であると、蘆州亦深く心服し一詩成る毎に必ず枕山に質す。明治18年8月8日病みて没す。享年56.向島蓮花寺に葬る。

     兼行法師
徒然草就悟禅初。   徒然 草は就る 悟禅の初
宿昔勤王心未疎。   宿昔勤王 心未だ疎ならず
欲伺北朝奸賊隙。   伺はんと欲す 北朝 奸賊の隙
為人破戒写情書。   人の為に 戒を破って情書を写す

     夏夜即事
濯罷園林夜趣長。   園林に濯ぎ罷んで夜趣長し
古松陰裏一虛堂。   古松 陰裏 虛堂
茶炉残火猶嫌熱。   茶炉の残火 猶を熱を嫌う
点向籠灯影乍凉。   点して籠灯に向えば 影乍ち凉し

     墨水遊春 (一)
背指楼台隔水遥。   背指す楼台 水を隔てて遥かなり
岸傍黄菜界塵囂。   岸傍の黄菜 塵囂を界す
恍然一路春如夢。   恍然 一路 春  夢の如し
随蝶迷花過枕橋。   蝶に随い花に迷うて 枕橋を過ぐ

     墨水遊春 (二)
石塔苔深塵点無。   石塔 苔深くして塵点無し
晩桜芳静両三株。   晩桜 芳は静なり 両三株
祠神也似人生老。   祠神 也た似たり人生の老
縦得春風尚白髪。   縦え春風を得るも 尚を白髪

  (底本・明治名家詩撰。明治十三年版権。清樾書屋蔵版)村上佛山/城井錦原
   09/05/15    石 九鼎