山中静逸

山中静逸。名は献、字は子文、別に信天翁と号す。三河の人。篠崎小竹・斎藤拙堂の門下。嘉永中王事に功あり、後、石巻県知事となる。晩年は京都に住す。明治18年没。年63.

     放 懐
一日不看山。   一日 山を観ず
吾心乃不平。   吾が心 乃ち平かならず
一日不看水。   一日 水を看ず
吾心乃不明。   吾が心 乃ち明らかならず
已有東山麗。   已に有り 東山の麗
兼之鴨水清。   之を兼めて 鴨水の清き
寓此最勝地。   此の最勝の地に寓し
飽怡吾性情。   飽くまで吾が性情を怡ばしむ
白雲不離座。   白雲 座を離れず
皓鶴来尋盟。   皓き鶴 来りて盟を尋ぬる

      自画山水
三間老屋対青山。   三間の老屋 青山に対す
山下垂楊緑一湾。   山下の垂楊 緑一湾
妻摘園蔬児漉酒。   妻は園蔬を摘み 児は酒を漉す
道人薄暮荷鋤還。   道人 薄暮 鋤を荷うて還る

      平 清盛麾日図
落日麾欲回。   落日 麾けば回らんと欲す
築島功難畢。   築島 功 畢り難し
知否子来民。   知や否や 子来の民
霊台成不日。   霊台 成る日ならず

       嵐 山
堰水紅霞外。   堰水 紅霞の外
春雲簇翆微。   春雲 翆微に簇がる
倚橋看月出。   橋に倚り 月の出ずるを看る
過寺惜花飛。   寺を過ぎて 花の飛ぶを惜む
帝昔移芳種。   帝昔 芳種を移し
山長帯寵輝。   山長 寵輝を帯び
遥尋御遊跡。   遥に尋ぬる 御遊の跡
萬点露沾衣。   萬点 露 衣を沾す

   04/24-09      石 九鼎