古歌　

　　　　　　　　　　　　

　　歴代中国女子詩選　　巻一　

　　　　古歌　　

　　　清　歌　　　　皇娥　　五帝
天清地曠浩茫々　　　天　清く地は曠し　浩　茫々たり
満象廻薄化無放　　　満象　廻薄　化して放なく
浩天蕩蕩望滄滄　　　浩天　蕩蕩たり滄滄を望む
乗桴軽漾著日傍　　　桴に乗じて軽く漾　日傍に著
当期何所至窮桑　　　当か何の所に期し窮桑に至り
心知和楽悦未央　　　心知　楽を和し未だ央に悦ばざるべし

　　　天子謡　　　　西王母　（周）
白雲在天山際　　　　白雲　天山の際に在り
自出道里悠遠　　　　自から道里に出で悠遠す
山川間之将子　　　　山川の間之将子
無死尚復能来　　　　死して尚ほ復た能く来る無し

　　　西王母吟
徂彼西土爰H其所
虎豹為群為鵲與処
嘉命不遷
我惟帝女彼何世民
又将去予吹笙鼓簧
心中翔翔
世民之子惟天之望

　　　烏鵲歌　　　　韓憑妻　　（宋）
南山有烏　　　　南山に　烏あり
北山張羅　　　　北山に　羅を張る
烏自高飛　　　　烏は自ら高飛する
羅當奈何　　　　羅は當に奈何とすべし

　　　烏鳶歌　　勾践夫人
　仰飛鳥兮鳥鳶
　凌玄虚兮号翻
　集州堵兮優恣
　啄蝦矯翩兮雲
　間任厥性兮往
　還妾無罪兮負
　地有何辜兮譴
　天飃獨兮西往
　孰知返兮何年
　心憂憂兮若割
　涙[シ　玄][シ　玄]兮双懸

　　　　和楚王垓下歌　　虞姫　（楚）
　漢兵已略地漢の兵　已に略地
　四面楚歌声　　四面楚歌の声
　大王意気尽　　大王の意　気は尽きて
　賎妾何聊生　　賎妾　何ぞ聊生す

　　　舂歌　　戚夫人　　
子為王母虜　　　　子は王母の為に虜となる
終日舂薄暮　　　　終日　薄暮に舂す
常與死為伍　　　　常に死と　伍ち為す
相離三千里　　　　相い離れて三千里
當誰使告女　　　　當に誰かを使いして女に告すべし

　　　悲歌　　烏孫公主
吾家嫁我兮天一方　　　吾家我に嫁す天の一方
遠託異国兮烏孫王　　　遠く異国に託すは　烏孫王
宮廬為室兮氈為牆　　　宮廬　室と為し　氈　牆と為す　
以肉為食兮酪為漿　　　肉を以って食と為し　酪は漿と為す
常思漢土兮心内傷　　　常に漢土を思う　心内の傷
願為黄鵠兮帰故郷　　　願はくは黄鵠と為り　故郷に帰らん

　　　帰風送遠操　　　趙　飛燕
涼風起兮大損霜　　　　涼風起って大に霜を損う
懐君子兮渺難望　　　　君子を懐う　渺として望み難たし
感予心兮多慷慨　　　　感予が心を感じ　慷慨多し

　　　抗袖歌　　　唐　姫
皇天崩兮后土頽　　　　皇天崩れ　后土は頽す
身為帝兮命夭推　　　　身は帝の為　命は夭して推る
死生異路兮従此乖　　　死生路を異るも此れより乖く
奈何労獨兮心中哀　　　獨り労す心中の哀れを奈何せん

　　　陽春歌　　　孟　珠　(魏）
陽春二三月　　　陽春　二三月
草與水同色　　　草と水　同色なり
道逢遊冶郎　　　道に逢う遊冶郎
恨不早相識　　　恨み早や相い識らず

　　　宛轉歌　　　劉　妙容
月既明西軒　　　月は既に西軒に明らかに
琴復清寸心　　　琴は復た寸心に清し
斗酒争芳夜　　　斗酒　芳夜に争う
千秋万歳同　　　千秋　万歳に同じ
一情歌宛轉　　　一に情歌　宛轉す
宛轉凄以哀　　　宛轉　凄て哀れを以てす
願為星與漢　　　願はくは星と漢と為さん

　　　冬歌　　　鮑　令暉（宋）
淵水厚三尺　　　淵水　厚さ三尺
素雪覆千里　　　素雪　千里を覆う
我心如松柏　　　我が心　松柏が如し
君心復何似　　　君が心　復た何に似たる

　　　青渓小姑歌　　　　青渓小姑
歌闌夜已久　　　歌闌して夜已に久し
繁霜侵暁幕　　　繁霜　暁幕を侵す
何意空相守　　　何の意ぞ空しく相い守るは
坐待繁霜落　　　坐して繁霜の落つるを待つ

　　　春歌　　　王金珠（梁）
階上香入懐　　　階上　香は懐に入る
庭中花照眼　　　庭中　花は眼を照らす
春心欝如此　　　春心　欝として此の如し
情来不可限　　　情来りて限り可からざる

　　　西陵歌　　蘇　小小（斉）
妾乗油壁車　　　妾が乗る　油壁の車
郎跨青驍馬　　　郎は跨る　青驍の馬
何処結同心　　　何処か　同心を結ぶ　
西陵松柏下　　　西陵　松柏の下　

　　　映水曲　　沈　願
軽鬢覚浮雲　　　軽鬢　浮雲を覚える
双蛾擬初月　　　双蛾　初月に擬す
水澄正落釵　　　水澄　正に落釵せんとす
萍開理垂髪　　　萍開いて垂髪を理む

　　　莫愁楽　　女子莫愁
莫愁在何処　　　莫愁　何れの処に在る
莫愁石城西　　　莫愁　石城の西
艇子打両漿　　　艇子　両漿を打つ
催送莫愁来　　　莫愁の来ることを催送す

　　　前渓歌　　包　名月
當曙與未曙　　　當に曙と未だ曙ならずと
百鳥啼窗前　　　百鳥　窗前に啼く
獨眠抱被歎　　　獨り眠り抱いて歎ずるによる
憶我懐中儂　　　憶う我れ懐中の儂

　　　十索曲・其の二　　丁　六娘（隋）
為性愛風光　　　性は風光を愛するが為に
偏憎良夜促　　　偏えに憎む良夜の促を
曼眼腕中嬌　　　曼に眼の腕中の嬌
相看無厭足　　　相い看る厭足の無きを
歓情不奈眠　　　歓情　奈んとも眠らず
従郎索花燭　　　郎に従い花燭を索く　