七言古詩

　　　　　　　　歴代中国女子詩選　　巻四
　　　　　　　　七言古詩　

七言古詩
和馬浩蘭　　　蘇　小小（斉）
此地曾経歌舞来　　　　此地曾って歌舞を経て来る
風流流回即塵埃　　　　風流　流れ回る即ち塵埃
王孫芳草為誰禄　　　　王孫芳草　誰が為に禄す
寒食梨花無主開　　　　寒食　梨花　主の開くなし
郎去排雲叫閭闔　　　　郎去り排雲　閭闔と叫う
妾今行雨在陽台　　　　妾今　行雨　陽台に在り　
衷情訴與遼東鶴　　　　衷情　訴與す遼東の鶴
松柏西陵正可哀　　　　松柏　西陵　正に哀む可し

　楊白花　　　胡　后（北魏）
三月陽柳斉作花　　　　三月陽柳　斉しく花を作す
春風一夜入閏闥　　　　春風一夜　閏闥に入る
楊花飄蕩落南家　　　　楊花飄蕩　南家に落つ
含情出戸脚無力　　　　情を含み戸を出で脚に力なし
拾得楊花涙沾臆　　　　楊花を拾得し涙　臆を沾す
秋去春還双燕子　　　　秋去り春還る双燕子
願銜楊花入窩裏　　　　願わくは楊花を銜んで窩裏に入らん

　看梅　　　候夫人（隋）
砌雪無消日　　　　　　砌雪　消日なし
捲簾時自顰　　　　　　簾を捲く時自ら顰む
庭梅対我有憐意　　　　庭梅我に対し憐意あり
先露枝頭一点春　　　　先ず枝頭に露はす一点の春

　擬晋女劉妙容宛轉歌　　宋　氏（唐郎大家）
風已清月　　　　　　　風已に清月
朗琴復鳴　　　　　　　朗琴復た鳴く
掩抑非千態慇懃　　　　掩抑　千態の慇懃に非らず
是一声歌宛轉宛　　　　是れ一声の歌　宛轉として宛てる
轉和且長願為双　　　　轉和　且つ長く願わくは双と為し
黄鵠比翼共翦翔　　　　黄鵠の比翼　共に翦翔せん

　携手　　　田　娥
携手共惜芳菲節　　　　手を携え共に惜しむ芳菲の節
鶯啼錦花満城闕　　　　鶯啼す錦花　満城の闕
行楽逶麗念容色　　　　行楽の逶麗　容色を念う
色衰祇恐君恩歇　　　　色衰え祇だ君恩の歇むことを恐れる
鳳笙龍管白日陰　　　　鳳笙龍管　白日の陰
盈虚自感中天月　　　　盈虚自ら感ず中天の月

　有所思　　劉　雲
朝亦有所思　　　　　　朝亦た所思あり
暮亦有所思　　　　　　暮亦た所思あり
登楼望君処　　　　　　楼に登り君を望む処
藹藹蕭関道　　　　　　藹藹　蕭関の道
掩涙向浮雲　　　　　　涙を掩い浮雲に向かう
誰知妾懐抱　　　　　　誰が知る妾が懐抱
玉井蒼苔青院深　　　　玉井の蒼苔　青院深し
桐花落尽無人掃　　　　桐花落ち尽くし　人の掃う無し

　惜春花　　　鮑　君微（唐）
枝上花花下人　　　　　枝上の花　花下の人
可惜顔色倶青春　　　　惜む可し顔色倶に青春
昨日看花花灼灼　　　　昨日　花を看る花灼灼たり
今日看花花欲落　　　　今日　花を看る花欲落ちんと欲す
不如尽此花下歓　　　　此に尽いて花下の歓にしかず
莫待春風総吹却　　　　待つ莫れ春風の総て吹却せしを
鶯歌蝶舞媚韶光　　　　鶯歌蝶舞　韶光に媚びる
紅炉煮茗松花香　　　　紅炉煮茗　松花香ばし
粧成吟態恣遊楽　　　　粧成って吟態　遊楽を恣いままにする
獨把花枝帰洞房　　　　獨り花枝把って洞房に帰る

　鶯鶯　　　黄　氏（明楊慎妻）
春風戸外花蕭蕭　　　　　春風戸外　花蕭蕭
緑窓繍屏阿母嬌　　　　　緑窓繍屏　阿母の嬌
白玉郎君恃恩力　　　　　白玉郎君　恩力を恃す
尊前心酔双翠翹　　　　　尊前心酔して双翠翹げる
西窗月冷濛花霧　　　　　西窗月冷やかに濛として花霧
落霞零乱揺墻樹　　　　　落霞零乱　墻樹を揺かす
此夜霊犀已暗通　　　　　此夜霊犀　已に暗に通ず
玉環寄恨人何処　　　　　玉環　恨を寄せる人は何処ぞ　　　　　
　
　見志詩　　章　節婦（明）
誰言妾有夫　　　　　　　誰が言う妾は夫ありと
中路棄妾先自[歹　且] 路に中り妾を棄て先ず自ら[歹　且]う
誰言妾無子　　　　　　　誰が言う妾は子なしと
側室生児與夫似　　　　　側室の生児と夫と似たり
似児読書妾辟[糸　廬]　　児は似て書を読み妾は辟[糸　廬]
空房夜夜聞啼鳥　　　　　空房夜夜　啼鳥を聞く
児能成名妾不嫁　　　　　児は能く名を成し妾は嫁がず
良人瞑目黄泉下　　　　　良人瞑目　黄泉の下

　病愁　　　尹　氏（明）
痩日無光照窓白　　　　　痩日　光なく窓を照らして白く
故樹嵯峨霜似雪　　　　　故樹嵯峨として霜　雪に似たる　　　　　　　
長天雲凍野為愁　　　　　長天雲凍　野は愁を為す
寒鳥亦自求其穴　　　　　寒鳥亦た自から其の穴を求め
我今病苦在何郷　　　　　我れ今病に苦しみ何この郷に在る
終日狂風辣塵揚　　　　　終日狂風　辣塵揚る
病裡思家無一夢　　　　　病裡　家を思い一夢なし
獨坐書斎近佛香　　　　　獨坐す書斎　佛香ちかし　
寂寞長安萬里目　　　　　寂寞たり長安　萬里の目
風烟渺渺断人腸　　　　　風烟　渺渺として人腸を断つ

　幽憤詩　　小　青（明）
雪意閣雲雲不流　　　　　雪意閣雲　雲　流れず　
旧雲正圧新雲頭　　　　　旧雲正しく圧す新雲の頭り
米顛顛筆落窓外　　　　　米顛　筆を顛して窓外に落す
松嵐秀気當我楼　　　　　松嵐秀気　我に楼に當り
垂簾只愁好景少　　　　　垂簾只だ愁う好景の少きを
捲簾又怕風繚繞　　　　　簾を捲き又怕れる風繚繞なるを
簾捲簾垂底事難　　　　　簾捲き簾垂れ底事ぞ難しき
不情不緒誰能暁　　　　　不情不緒　誰が能く暁（さと)す
炉烟漸痩剪声小　　　　　炉烟漸やく痩せ剪声は小なり
又是孤鴻涙悄悄　　　　　又是れ孤鴻　涙悄悄たり