★★ 六如上人 ★★ 六如(1734~1801)名は慈周。号=六如。近江八幡出身。天台宗学僧。江戸中期の詩僧。『葛原詩話』の著で名高い。 六如は幼小時から才知を現していたが、延年元年15歳の時、父・介洞は天台宗の観国大僧正に託して出家させた。 六如は東叡山の准三后一品法王の寵遇をうけて、一時はその顧問の役を務めていたこともあり、従って天台僧侶の間での地位も高く、又、佛典にも、かなり、よく通じていた、然し彼の名が今でも伝っているのは、専らその詩業による。 天明から寛政へかけて、、我が国で詩の大きな革新運動が興りり、宗詩に学ぶべきことが頻りに提唱された。その時期、六如はその新風を最も早く作品によって具体的に示した詩人の一人であった。晩年には京都嵯峨の長床坊に隠退した。 霜暁 暁枕覚時霜半晞。 暁枕 覚める時 霜 半ば晞く 満窓晴日已熹微。 満窓の晴日 已に熹微たり 臥看紙背寒蝿集。 臥して看る 紙背に寒蝿の集るを 双脚挼裟落復飛。 双脚 挼裟して落ちて復た飛ぶ ◇双脚挼裟落復飛=冬の力ない蠅が両脚を、擦り、揉んだり、しながら時々、ポロリと床に落ちては飛ぶ有様を写生した句。 従来の詩の狙うところが典麗な格調と,風雅な情緒にあった。六如の詩は必ずしも、それらを追わず、卑近な日常生活の中かに詩材を求め、実景を写し、実感を歌うことを主眼としている。 虎渓三笑図 匡蘆一條水。 匡蘆 一條の水 撼山風雷闘。 山を撼かし 風雷 闘う 三老亦何人。 三老 亦 何人ぞや 一笑聞宇宙。 一笑して 宇宙に聞く ◇三老=慧遠と陶淵明・陸修静の三人。 ◇宇宙=天の覆うところを「宇」。地の由るところを「宙」。即ち、天地の義。 雪中尋梅図 雪晴渓脚橋断。 雪晴れて 渓脚に橋断え 雲冷山腰日斜。 雲冷かにして山腰に日斜めなり 樵市百銭濁酒。 樵市 百銭の濁酒 驢鞍一朶梅花。 驢鞍 一朶の梅花 ◇この詩は「六言絶句」。六言絶句の平仄式。 1、七言絶句の第五字目を抜いたもの。 2、前後2句(起句と承句。転句と結句とも対句とする)。 3、したがって、起句は「ふみ落とし」。押韻しない。 4、一句の作りは、2字、2字、2字とする。 帰山途中作 巾車迢逓向巖阿。 巾車 迢逓 巖阿に向かう 落日平川独鳥過。 落日 平川 独鳥過ぐ 遥望茅垣春澗裡。 遥かに茅垣を望めば 春澗の裡 朧朧山月散煙羅。 朧朧たる 山月 煙羅に散ず ◇迢逓=遠いさま。遥かなさま。 ◇朧朧=おぼろ、薄くらい、 ◇煙羅=もやを帯びたかつら。かずら。 春日漫吟 二首之一 明日正当三月三。 明日 正に当たる 三月三 羨他年少興酣酣。 羨む他の年少 興 酣酣たるを 詩儔酒伴今零落。 詩儔 酒伴 今 零落す 鳥思花情両不堪。 鳥思 花情 両つながら堪えず ◇酣酣=酒を飲んで心がのびのびするさま。 ◇詩儔=詩友。詩を作る仲間。 ◇「鳥思」「花情」は句中対。作詩者、以って味会うべし。 題梁蛻翁像 梁蛻翁の像に題す 叱咤風雲役鬼神。 風雲を叱咤して 鬼神を役す 文場百戦気無前。 文場 百戦 気 前無し 要知豪傑真風調。 豪傑の真の風調を知らんと要せば 一串数珠収暮年。 一串の数珠 暮年を収む ◇梁蛻翁=(梁田蛻巌・やなだぜいがん=1672~1757)江戸中期の儒者。詩人。荻生徂徠の古文辞派が 天下を領していた時、敢然反旗を立てた人。 ◇鬼神=神明 ◇文場=文学者の世界。 ◇無前=今までの例が無い。 題利休居士像 利休居士の像に題す 人言桑苧一流人。 人は言う 桑苧 一流の人と 黄帔烏紗難認真。 黄帔 烏紗 真を認め難し 応自松風入三昧。 応に松風より 入昧に入るなるべし 至今屍祝作茶人。 今に至るまで 屍祝されて 茶人と作る ◇利休居士=千利休。 ◇桑苧=唐の茶人。陸羽。 ◇黄帔=黄色のそでなし。 ◇三昧=邪念を去り、一つのことに精神を集中する。転じて、物事の極致に達すること。 ◇屍祝=(ししゅく)=かたしろと神主。 崇拝すること。 石 九鼎 著す 08/11/06 |