清明上河図>12                       石九鼎の漢詩館
               清明上河図  12
              独断・清明上河図を旅する

62歳にして国禁を侵し宋の国に渡った学僧「成尋」。彼の著『参天台五臺山記』は当時の宋代、とりわけ開封を克明に記録し、貴重な資料として今に伝える。

7歳で大雲寺に入り”阿闍梨”(衆僧の模範となる高僧)になるが、宋代の中国に旅立つた成尋、母の深いきずなを振り切って中国に渡り、三年後には必ず帰国すると母と約束したが生涯二度と日本に帰ることが出来なかった。その日記が 『参天台五臺山記』である。

延久元年(1069年)成尋59歳。母82歳。この年、成尋は母に渡宋・五台山巡礼のことを告げる。延久四年(1072年)成尋62歳。母85歳。3月15日、宋の商船に乗り込む。翌年6月12日。1年3ケ月、連日にわたり詳細な記録を残している。異国にあって日本人の自覚と感覚で記録したものを、日本にもたらすのが、自分の使命であるかのような、執筆姿勢である。

延久四年(1072年)6月十某日。成尋から母へ手紙。3月に乗船したことを伝える。延久四年8月11日。母、成尋の夢を見る。13日にも成尋の夢を見る。
8月21日。杭州に上陸。自分の甲の履物を80文で買う。翌日、他の者が買った草履が40文だった、と記す。



               



成尋は日本では目にすることの出来ない食べ物、動物、建物など微細なところまで記述する。南京到着後、象舎で象を見る。『皆、黒象なり。後足に縄を付けてこれを繋ぐ。処々に草を積み置くこと山の如し。毎日の食、一頭15斤、わらぐさの長さ7,8尺ばかり。

象は元広南戦いの為に城に於て養う所なり。広南を破りて後、此に於いてこれを養う、象に毛無し。膚の色、日本の黒牛の如し、毛落つる時は鈍色なり』

10月13日開封着。開封相国寺前の延安橋のたもとに船を停泊し船から仔細に見たさまを記述。『牛、車を懸けて過ぎ行く。日本の車屋形に似ると雖も、前後左右に四柱あり。窓蓋の柱なり』成尋一行、開封太平興国寺伝法院入りし、五十日間逗留する。

「五臺山での奇跡。神宗皇帝への拝謁」  成尋 (1)
日本国僧成尋等八人并びに通事「通訳」陳詠を朝見せしむ」密航してまで杭州にたどり着き、あこがれの天台山で焼香し、皇帝の厚遇によって都に迎えられ、今や拝謁の栄光に浴す成尋にとって感概無量の思いだった。

                   
                



皇帝は銀の床に銀の椅子に座す。その前後左右に数百人の護衛が取り囲み、中には数十人の兵士もいるようで、弓矢を背負っていた。やっと成尋たちの順番になり、八人は西を上座して一列に並び、皇帝の座のある南に向かい「引見」と声を延ばして命ぜられると、通訳の陳詠が前に進み出て拝礼して、『聖躬万宝』と呼ぶに合わせて、一同お辞儀をしながら『万万歳』と高らかに唱える、後、拝謁にともなう、お決まりの品らしく、成尋たちに下賜される。成尋は宮中に着いてから、建物の様子、人々の動き、式次第に到るまで詳細に記録している。

「備中新山で夢。延久元年(1069年)」  成尋 (2)
延久三年12月13日夜、成尋は宮中に於いて『甲の袈裟』を下賜される夢を見て、覚めて、後これは中国に於いて紫衣の拝領する瑞相だと思ったと言う。この夢は渡宋して皇帝から紫衣が下される兆だと確信し、しかもそれが一年もたたないうちに現実となる。

11月1日、成尋たち一行はいよいよ、五台山へ向け出立つする。宣旨によって下された官の馬十匹馬の口を取る者、各二名、護衛の兵士20名、それ以外に個人用として成尋が購入した馬二匹。総勢50人近い人数、伝法院の僧たちに見送られて出立つ。途中、榮陽県過ぎあたりで、『西の大崖の下に大穴を掘り、数十の土屋有りて人多く棲めり』これは今でも見られる。

黄土地方特有の”ヤオトン”と呼ばれる家である。乾燥地帯の黄土層に造られ、冬は暖かく、夏は涼しい構造になっている。現在でも居住している。部屋にはテレビ他。家具一式揃えている。昔、ある国の田舎代議士が”中国には穴ぐらに住んでいる人間がいる”と物議をかもした。これを称して『人之天』也。

11月27日。成尋、五台山の東台を眺めて感激のあまり落涙する。

12月2日。五台山を離れ12月26日に開封に帰着。

天台山と五臺山への巡礼と佛典の収集。成尋としては後は個人的な佛道に励むことが出来るので一先ず天台宗の総本山である国清寺に戻り、『国清寺に在りて安下三年在寺修行せんと欲す』と三年間修行したいと言う。国清寺主の杭州府への牒安文によると、渡宋した七人の僧のうち六人は帰国させて、一人は留めて成尋の身辺に仕えさせるようで修業生活に入る前の意図が覗える。



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