江馬天江

先哲者の漢詩＞２１＞江馬天江

江馬天江　　
江馬天江・名は正人、聖欽。字は弼。美濃の人。「文政8・11・3－明治34・3・8」　少壮、京に出て医学を学ぶ。のち、緒方洪庵に洋学を学び、亦、梁川星巌の門下に入り詩を学んだ。
明治２年京都に閑居して儒学を講じた。著書・退享園詩鈔・２巻。他。参考文献・明治詩鈔。
明治大正詩選。明治詩文集。

　　　　　　　　　清閒寺
鐘磬寥寥不見僧。　　　　鐘磬　寥寥　僧を見ず
寺門鎖在白雲層。　　　　寺門　鎖して在り　白雲の層
空山霜後無人掃。　　　　空山　霜後　人掃う無し
紅葉秋埋古帝陵。　　　　紅葉　秋は埋む　古帝陵

　　　　　　　　　　偶　書
爛却舌頭焦却脣。　　　　舌頭を爛却して　脣を焦却する
世間誰敢信儀秦。　　　　世間　誰か敢えて儀秦を信ぜん
諄諄但出丹誠語。　　　　諄諄　但出す丹誠の語
児女片言還動人。　　　　児女の片言　還た人を動かす

　　　　　　　　　　真葛原
春風芳草路三叉。　　　　春風　芳草　路三叉
可向林邱向狭斜。　　　　林邱に向かう可けんや　狭斜に向はん
脩竹園牆高士宅。　　　　脩竹　園牆　高士の宅
垂楊門巷美人家。　　　　垂楊　門巷　美人の家

　　　　　　　　　苦　熱
一領焦衫猶覚重。　　　　一領の焦衫　猶重きを覚える
困眠偏与枕相親。　　　　困眠　偏に枕と相親しむ
隔簾竹影有時動。　　　　簾を隔つの竹影　時あってか動く
只是清風不到人。　　　　只是れ清風　人に到らず

　　　　　　　　　夏　夜
碧梧影裏喚茶甌。　　　　碧梧　影裏　茶甌を喚ぶ
露榻風簾已占秋。　　　　露榻　風簾　已に秋を占める
彷彿林梢凉笑語。　　　　彷彿　林梢　笑語凉し
夜深人在月中楼。　　　　夜深　人は在り　月中の楼

　　　　　　　　　散策口占
午王門外已斜陽。　　　　午王門外　已に斜陽
去訪林間旧酒坊。　　　　去り訪う　林間　旧酒坊
一路春風美人過。　　　　一路　春風　美人過ぎ
絶無花処亦吹香。　　　　絶て花無きの処　亦香を吹く

　　　　　　　　　題清狂道人剣舞図
以狂自号未曽狂。　　　　狂を以って自ら号す未だ曽て狂ならず
王則称尊夷説攘。　　　　王は則ち尊を称し夷は攘を説
縦与楠公不同墓。　　　　縦い楠公と墓を同じうせざるも
法門侠骨到今香。　　　　法門　侠骨　今に到りて香し

　　　　　　七月十六夕、与陳曼寿訪西疇寓楼同賦
京華佳夕在鳧河。　　　　京華の佳夕　鳧河に在り
士女追凉簇綺羅。　　　　士女凉を追うて　綺羅簇る
出樹楼台迎日早。　　　　樹を出ずるの楼台　日を迎える早く
臨流亭廟受風多。　　　　流れに臨むの亭廟　風を受けること多し
未知饌玉因何地。　　　　未だ知らず饌玉　何の地に因る
始信銷金有此鍋。　　　　始めて信ずる　銷金　此の鍋有るを
隔水東西垂柳岸。　　　　隔水　東西　垂柳の岸
萬枝燈影帯絃歌。　　　　萬枝の燈影　絃歌を帯びる

　　　　　　　　　偶　題
風飄微雪入檐端。　　　　風は微雪を飄わし檐端に入る
縦有幽期践約難。　　　　縦い幽期有るも約を践むこと難し
莫笑衰翁出門懶。　　　　笑う莫れ　衰翁の門を出ずるに懶し
梅花時節猶春寒。　　　　梅花　時節　猶春寒

　　　　　　　　　雑　感
葉醜枝枯失艶華。　　　　葉醜く枝枯れ　艶華を失う
新栽巧解補籬笆。　　　　新たに栽え　巧みに解きて籬笆を補う
世間何地無佳樹。　　　　世間　何の地か佳樹無からん
依旧惟移慣看花。　　　　旧に依って惟移すのみにて看花に慣る

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