先哲者の漢詩>22>野口寧齋

野口寧斎
肥前諫早の出身。名を弌。字は貫卿。「慶応3・3・25−明治38・5・12」
野口松陽の長男、弟に英文学者・島文次郎がある。壮年沈痾に罹り
病苦の中にあっても心力を詩に傾けながらの活動はしばしば 正岡子規などに比較される。

雑誌百花欄を編輯し詩道の振興に尽瘁した。『詩壇の鬼才』と言はれ 、その詩は清詩を正宗とした。絶句・律詩・長詩と瑰麗な作品を遺した。蔵書は早稲田大学図書館に収められていると言う

参考文献・明治漢詩文集。明治大正名詩選。明治詩鈔。

       送槐南先生赴広島
居然詩筆壮皇州。    居然たり詩筆 皇州を壮す
此去更参蓮幕籌。    此を去って更に参ず 蓮幕の籌
大纛連雲森不動。    大纛 雲に連って 森として動かず
一声刀斗警高秋。    一声の刀斗 高秋を警す

       辛卯除夕祭詩龕雅集
大器成名固合遅。   大器 名を成す固より合に遅かるべし
吾曹所願不過之。   吾曹 願う所 之に過ぎず
必伝文字今無幾。   必伝の文字 今幾ばくも無し
歳歳年年祭悪詩。   歳歳 年年 悪詩を祭る

      自題少年詩話後  二首之一
畢竟古賢糟粕餘。    畢竟 古賢 糟粕の餘
霏霏談屑竟何如。    霏霏 談屑 竟に何如
烹文炊字閑生計。    文を烹 字を炊ぐ 閑生計
我是人間一蠧魚。    我は是れ人間 一蠧魚

      自題少年詩話後  二首之二
詩痩平生獨自憐。    詩痩 平生 獨り自ら憐れむ
墨香散入薬炉煙。    墨香 散じて入る薬炉の煙
春風怕見梅花笑。    春風 梅花に笑はれるを怕れる
破壁寒燈又一年。    破壁 寒燈 又一年

      寄懐森鴎外在台湾
炎風朔雪去来間。    炎風 朔雪 去来の間
奏凱鳳城何日還。    凱を奏して鳳城何れの日にか還らん
流鬼潮通天水外。    流鬼 潮は通ず 天水の外
大寃暑入鼓笳間。    大寃 暑は入る 鼓笳の間
従軍児女文身地。    軍に従う 児女 文身の地
立馬英雄埋骨山。    馬を立つ英雄 埋骨の山
颯爽英姿酣戦後。    颯爽たる英姿 酣戦の後
又揮健筆紀征蠻。    又 健筆を揮って 征蠻を紀す

      次李賀高軒過詩韻。呈蒼海先生。
遠樹銜雨緑鬱蒼。     遠樹 雨を銜み 緑 鬱蒼たり
短檐鐵馬声瓏瓏。     短檐 鐵馬 声 瓏瓏たり
高軒一過盛誼隆。     高軒 一過 盛誼 隆に
驚瞻紫氣連天紅。     驚瞻す紫氣 天に連なりて紅なるを
隣人不知前相公。     隣人 知らず 前の相公
温容下士披心胸。     温容 士に下り 心胸を披き
大雅扶輪方寸中。     大雅 扶輪  方寸の中
狄門桃李才不空。     狄門の桃李 才 空しゅうからず
文章要補黼黻功。     文章 補を要す 黼黻の功(ほふつ)
小子陋巷坐断蓬。     小子 陋巷 断蓬に坐し
楼傾階仄寒秋風。     楼傾き階仄き 秋風寒し
邀公目送天外鴻。     公を邀え目送す 天外の鴻
城松矯矯如遊龍。     城松 矯矯として 遊龍の如し

      春 暁
昨夜吹簫処。   昨夜 簫を吹く処
空濛隔碧紗。   空濛 碧紗を隔つ
春人仍在夢。   春人 仍を夢に在り
残月不離花。   残月 花を離れず
小鴨篆煙歇。   小鴨 篆煙 歇み
薄寒簾影遮。   薄寒 簾影 遮る
Y鬟扶睡起。    Y鬟 睡を扶けて起ち
準備雨前茶。   準備す雨前の茶


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