先哲者の漢詩>25>長尾雨山

長尾雨山
(元治1・9・18−昭和17・4・1)讃州高松の人。
  名は甲。字は子生。通称槙太郎。別号を石隠・无悶道人・睡道人。(室名)无悶室。何遠楼。思斎堂。艸聖堂。他幼時、父の庭訓を受け、天稟の詩才を謳われた。

  長じて駐日清国公使黎庶昌や書記官鄭孝胥などを驚かせた。鄭孝胥とは、生涯を通じて深厚を結んだ。岡倉天心と謀って東京美術学校の創立に尽くし又夏目漱石と同僚で親交が有り、詩の刪正もしたと伝えられる。明治35年東京大学を退官後、上海に移住し商務書館の編輯を督した。

滞留12年帰国してからは京都に居し講学と詩書三昧の生活に余生を送った。その詩は、初め国分青高ニ同じく 「明の七子の風」を唱え、副島滄海の知遇を得た。後には唐宋にも出入してその長を採り、獨自の境地を拓いた。
    参考文献・明治漢詩文集。明治大正名家選。昭和七百家絶句。

       題王仲初画冊  其の一
鬱鬱長松蟠老龍。    鬱鬱たる長松  老龍蟠る
千年黛色歳寒濃。    千年の黛色 歳寒 濃やかに
空林風定静凝露。    空林 風定まり 静に露を凝らす
微聴候山残夜鐘。    微に聴く 候山 残夜の鐘

       題王仲初画冊  其の二
湖山欲雪凍雲低。    湖山 雪ならんと欲し 凍雲 低し
脈脈梅花香暗迷。    脈脈たる梅花 香 暗に迷う
放鶴帰来回首處     放鶴 帰り来たり 首を回す處
一枝斜出断橋西。    一枝 斜めに出でる 断橋の西

        題王仲初画冊  其の三 
黄鶴楼前烟水平。    黄鶴楼前 烟水 平なり
白雲秋色接空明。    白雲 秋色 空明に接す
定知崔欲題句。    定めて知る崔題を欲せんとする句
巌逕微吟曳杖行。    巌逕 微吟 曳杖して行く

        題王仲初画冊  其の四
千古風流孟浩然。    千古の風流 孟浩然
襄陽高隠老詩仙。    襄陽 高隠 老詩仙
君恩幸放草盧去。    君恩 幸に草盧に放し去り
覓句寒崖看石泉。    句を覓め 寒崖 石泉を看る

        題王仲初画冊  其の五
躡雲鳴錫到西天。    雲を躡み 鳴錫 西天に到る
示現飛行自在身。    示現 飛行 自在の身
慧業従来何所得。    慧業 従来 何れの所ぞ得る
降龍弄虎是応真。    降龍 虎を弄す是れ応に真なるべし 

         題王仲初画冊  其の六
渓山重疊変烟菲。    渓山 重疊 烟菲に変ず 
幽隠何人掩板扉。    幽隠 何に人か 板扉を掩う
刻意欲追李成筆。    刻意 追わんと欲す 李成の筆
荊関以外発天機。    荊関 以外 天機を発す

   秋日與青崖山人飲于江楼
墨水流日夜。    墨水 日夜 流れ
傾曦忽其陰。    傾曦 忽ち其れ陰る    

柳橋春色徂。    柳橋 春色 徂き
森森h樹林。    森森たり h樹の林
霜隕蒹葭鳴。    霜隕ちて 蒹葭鳴り
寒商動水潯。    寒商 水潯を動かす
風物豈不美。    風物 豈美ならざらんや
暮景傷蕭森。    暮景 蕭森を傷む
雖匪宋玉才。    宋玉の才に匪ずと雖も
騒懐矣若禁。    騒懐 矣若んぞ禁ぜん
把酒澆中腸。    酒を把りて 中腸に澆ぎ
放曠啓我襟。    放曠 我が襟を啓く
挙俗尚屑屑。    俗を挙げて 屑屑を尚ぶ
安知丈夫心。    安んぞ丈夫の心を知らんや
登楼須登高。    楼に登れば須く高きに登るべく
莅水須莅深。    水を莅めば須く深きに莅むべし

        枕上聴雪
蕭蕭朔気度林柯。    蕭蕭たる朔気 林柯を度る
愁枕寒窗雪舞鵝。    愁枕 寒窗 雪 鵝を舞わす
白尽陰山千万里。    白尽す 陰山 千万里
漢家飛将近如何。    漢家の飛将 近ごろ如何

       寄種竹山人遊松島
金華當頭雲路通。    金華當頭 雲路通じ
仙山杳渺瑞巌東。    仙山 杳渺 瑞巌の東
吹笛舟過三珠樹。    笛を吹き舟は過ぎる 三珠の樹
八百八州名月中。    八百八州  名月の中


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