先哲者の漢詩>26>永坂周二

永坂周二
 (1845−1924)
名は周二。字は希壮。号を、せきたい、石(せき)たいは土扁に隶。別号を「玉池星舫夢楼斜庵」「又一桂堂」。尾張名古屋の人。詩文を愛し、森春涛・鷲津毅堂に学ぶ。春涛門下の四天王の一と称された。

神田松坂町(俗称お玉ケ池)の梁川星巌の旧宅を求めて、「玉池仙館」と称し中国文人風で中国趣味を凝らした。多くの文人・墨客が出入した。詩の他に書を能くし南画を修め、詩書画三絶の雅名を恣にした。
          参考文献・明治詩鈔。明治漢詩文集。

          記 別
荷亭月院記年前。    荷亭 月院 年前を記す
唱到離歌易暗然。    離歌を唱し到れば 暗然 易し
不把新詩軽写別。    新詩を把って軽く別に写さず
怕郷一読一纒綿。    怕れる郷が 一読 一纒の綿

        題帰恒軒書幅
劫餘翰墨倍精神。    劫餘 翰墨 倍々精神
復社風流奇絶倫。    復社の風流 奇 絶倫
浩浩乾坤愁萬古。    浩浩たる 乾坤 萬古に愁う
文章敢擬楚霊均。    文章 敢えて楚の霊均に擬せんや

        碧雲湖棹歌
美人不見碧雲飛。    美人 見えず 碧雲 飛ぶ
惆悵湖山入夕暉。    惆悵す 湖山の 夕暉に入るを
一幅湘波誰剪取。    一幅の 湘波 誰か 剪取する
春潮痕似嫁時衣。    春潮 の痕は似たり 嫁時の衣に
       
※宍道湖に浮かぶ嫁が島にこの石碑がある

          丁字簾   三首
秋夜無聊。偶閲陳碧城絶句。集中有丁字簾用銭蒙叟句詩。  戯倣其体。乃歩元韻。
       丁字簾   三首之一
丁字簾前是六朝。    丁字 簾前 是れ六朝
月明誰学嫩児簫。    月明 誰か学ぶ 嫩児の簫
秋風吹蕩秦淮水。    秋風 吹き蕩かす 秦淮の水
惆悵何人倚画橈。    惆悵す 何人か  画橈に椅る

        丁字簾    三首之二
青山如夢落秋潮。    青山 夢の如く 秋潮に落つ
丁字簾前是六朝。    丁字 簾前 是れ六朝
桃葉歌寒楊葉短。    桃葉 歌は寒く 楊葉 短し
白門残日易蕭蕭。    白門 残日 蕭蕭なり易し 

        憶 梅 亭
萬珠吹雪乱山青。     萬珠 雪を吹いて 乱山 青し
一把團芳百歳型。     一把の 團芳 百歳の型
為是主人来見少。     為に是れ主人来たり見ること少に
花前却署憶梅亭。     花前 却って署す 憶梅亭

     小牧山書感
指點長湫路。    指點す 長湫の路
蒼茫落日中。    蒼茫たり 落日の中
小邱留覇迹。    小邱  覇迹を留め
大木想英風。    大木 英風を想う 
陰澹鵑声破。    陰澹 鵑声 破り
煙寒麦気通。    煙寒く 麦気 通ず
登臨予有感。    登臨 予 感有り
欲賦竟難工。    賦さんと欲するも竟に工なり難し

       芳山夜月圓
遊人散尽寂無譁。    游人 散じ尽くし寂として譁無し
山樹于今棲白鴉。    山樹 今に于て白鴉 棲む
満地月明寒似雪。    満地月明らかに寒くして雪に似たり
夜深誰拝古陵花。    夜深くして誰か拝す 古陵の花

        春荘夜月
夜深低唱小紅詞。    夜深 低唱す 小紅の詞
悄破雲來月亦痴。    悄として雲を破って來る月 亦痴なり
猶是欄干有人倚。    猶を是れ 欄干 人の倚る有り
春風扶起海棠糸。    春風 扶け起す 海棠の糸

         暮 雨
暮雨斑斑客涙零。    暮雨 斑斑 客涙 零つ
蘭凋竹痩感湘霊。    蘭凋 竹痩 湘霊を感ず
詞辺留此荒残筆。    詞辺 此の荒残筆を留め
可耐重題湖上亭。    耐える可き重ねて湖上亭に題するを


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