先哲者の漢詩」>31>橋本蓉塘


橋本蓉塘(1844−1884)
名は寧。字を静甫。京都の人。東京に出て森春涛に就き、桃花會(十日會)に出入した頃には同席した大沼枕山を驚嘆させる程の力量をし、「春涛門下の四天王」に数えられるに至った。

兪曲園が「東贏詩選」に蓉塘の詩71首を収めて大家の列に置き蓉塘の声価を不動のものにした。詩は自ら白天楽・陸放翁を好んで宗奉すると述べているが、広く各時代の詩を渉臘している。不幸にも中年にして(41歳)で没したのは明治漢詩壇にとっても、大きな損失であったと言われている。著書に”蓉塘詩鈔2冊。瓊茅餘滴3冊。他。
     参考文献:明治大正名詩選。明治漢詩文集。

           題秦淮水閣図  二首之一
楼外紅橋橋外楼。    楼外は紅橋 橋外は楼
秦淮猶見旧風流。    秦淮 猶見る 旧風流
梅花名月春人笛。    梅花 名月 春人の笛
桃葉煙波古渡舟。    桃葉 煙波 古渡の舟
後主有歌翻玉樹。    後主 歌有り 玉樹を翻し
老公無策護金甌。    老公 策無し 金甌を護するに
于今丁字簾前水。    今に于いて 丁字簾前の水
嗚咽如含六代愁。    嗚咽して六代の愁いを含むが如し

          墨 堤
扇影衣香映水妍。    扇影 衣香 水に映じて妍なり
東風妝點有情天。    東風 妝點す 有情の天
春人身比春楊柳。    春人 身は比す 春楊柳
不倚紅楼即画船。    紅楼に倚らずんば 即ち画船

         緑陰清画
香篆如雲繞榻斜。    香篆 雲の如く 榻を繞って斜めなり
緑陰清画寂無譁。    緑陰 清画 寂として譁なし
暗泉微瀉階前雨。    暗泉 微かに瀉ぐ 階前の雨
残蝶猶棲葉底花。    残蝶 猶を棲む 葉底の花
一巻硬黄臨古帖。    一巻の硬黄 古帖に臨み
半甌嫩白煮新茶。    半甌の嫩白 新茶を煮る
清和風物宜孤賞。    清和の風物  孤賞に宜し
懶問橋南売酒家。    問うに懶し 橋南 売酒の家

         冬夜書感
期葛}景枉侵尋。    期梶@急景 枉げて侵尋す
僵臥空山冬又深。    空山に僵臥して 冬又深し
月和霰声穿破屋。    月は霰声に和し 破屋を穿つ
風傳鶴唳落枯林。    風は鶴唳に傳えて 枯林に落つ
貧妻徒有牛衣涙。    貧妻 徒だ牛衣の涙 有り
寒士原無馬革心。    寒士 原と馬革の
一巻残書猶在手。    一巻の残書 猶 手に在り
青燈剪尽夜沈沈。    青燈 剪り尽くし 夜沈沈

          春日偶感
薄倖当年杜牧同。    薄倖 当年 杜牧に同じ
可憐奔景太怱怱。    憐むべし 奔景 太だ怱怱
半簾酒影妓楼雨。    半簾の酒影 妓楼の雨 
一縷茶煙禅榻風。    一縷の茶煙 禅榻の風
在世原無非夢裏。    在世 原と夢裏に非ざる無く
此生誰免老愁中。    此の生 誰か免れん愁中に老ゆるを 
簾禽啄落乾紅片。    簾禽 啄し落す 乾紅片
似與迷人示色空。    迷人の與に 色空を示すに似たり

          春 寒
画閣重簾養病酲。    画閣 重簾 病酲を養う
梅花痩格有餘清。    梅花の痩格 餘清 有り
鶯児舌渋不成曲。    鶯児 舌 渋って 曲をなさず
也似児家手裏笙。    また似たり 児家 手裏の笙


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