先哲者の漢詩>33>国分青崖

国分青崖 (1857-1944)
宮城県仙台の人。名は高胤・字を子美・通称を豁(とおる)。別号を太白山人。明治・大正・昭和の大詩人。明治九年、上京し司法省法学校第一期生として入学。卒業前にストライキをして退学。 同時に退学した者に、原敬・陸羯南・福本日南・加藤拓川、ら他日、名を成したものが多い。何れも皆、青崖を大切にした。

操觚界に投じのち陸羯南の知遇を得て、東京電報・日本新聞に漢詩で時事を評論する「評林体」の詩を発表し満天下の喝采を博した。三条実美公が日光の別荘に詩人を招き(巖谷一六、森槐南、矢土錦山、久保槐谷)その時作した青崖の「風雨観華巌瀑布歌」が日本新聞に掲載されると副島滄海、大いに感服し、次韻し青崖の詩名を重からしめた。

陸羯南が死亡して ”日本新聞”が他人に渡ったので 「日本及び日本人」誌を興しその方に力を注いだ。蔵書に富み、石楠花を愛し、庭に数十株を植え悠悠自適をしその家を名ずけて”石楠荘”と言った。詩作の多いこと無類と称され(四萬首あるとも言われる)寡慾恬淡。青崖自ら詩集を編むことをしなかったと伝える。『青崖詩存』(木下彪、編集)20巻2冊が 昭和50年台湾で印刷され刊行された。(序文は木下彪先生が書してある)。

参考文献:青崖詩存・日本漢詩・日本漢詩文集・風雅叢書


         芳野懐古
聞昔君王按剣崩。   聞く昔 君王 剣を按じて崩ずと
時無李郭奈龍興。   時に李郭無く 龍興を奈んせん
南朝天地臣生晩。   南朝の天地 臣生るる晩し
風雨空山謁御陵。   風雨 空山 御陵に謁す
           
☆李郭(李光弼と郭子儀)

          奈蒼生
此人不出奈蒼生。   此の人 出ずんば 蒼生を奈んせん
世上徒伝謝傳名。   世上 徒らに伝う 謝傳の名
貨殖有謀昵商賈。   貨殖 謀有り 商賈と昵しみ
党援多歳養才英。   党援 多歳 才英を養う
謙恭下士王安石。   謙恭 士に下る 王安石
反覆欺民呂恵卿。   反覆 民を欺く 呂恵卿
一自黄金能換法。   一たび 黄金の 能く法を換えしより
江湖新紙寂無声。   江湖の新紙も 寂として声無し
            
☆蒼生(天下万民)
               ☆ 謝傳(晉の政治家謝安)
               ☆貨殖(財産を増やすこと)☆商賈(商人)
               ☆党援(仲間を組んで引き立てあう)
               ☆謙恭(へりくだり、うやうやしい)


          西山荘
葆真抱樸徳堪欽。   真を葆み 樸を抱き 徳欽に堪えたり
園廃藩籬寓託深。   園に藩籬を廃す 寓託深し
寒碧一泓涵万影。   寒碧 一泓 万影を涵す
静従向背見人心。   静かに向背に従い 人心を見る


          松菊幽
慷慨獨先天下憂。   慷慨 獨り天下に先んじて 憂い
声名早已動諸侯。   声名 早くも已に 諸侯を動かす
衣冠奉使四方国。   衣冠 使を奉ず 四方の国
帷幄建勲千里謀。   帷幄 勳を建つ 千里の謀
霽月光風此襟度。   霽月 光風 此の襟度
伏龍雛鳳足倫儔。   伏龍 雛鳳 倫儔に足る
暮年爵禄視如土。   暮年 爵禄 視こと土の如し
三径苔荒松菊幽。   三径 苔荒れて 松菊幽なり
            
☆この詩は維新三傑の一人、木戸孝允を詠じる


          悲末路
偉才宏略幾人同。   偉才 宏略 幾人か同じうす
百雉坐収談笑中。   百雉 坐して収む 談笑の中
自古英雄悲末路。   古より 英雄 末路を悲しみ
至今父老慕前功。   今に至り 父老 前功を慕う
月明薩海魚龍夜。   月明 薩海 魚龍の夜
秋老城山草木風。   秋老 城山 草木の風
鐘室有冤天合憫。   鐘室 冤有り 天 合に憫むべし
淮陰未敢悔蔵弓。   淮陰 未だ敢えて 蔵弓を悔やむまず
            
☆この詩は西郷隆盛を詠じたもの。


          読南木志
忠義南朝第一臣。   忠義 南朝 第一の臣
闔門九族死成仁。   闔門 九族 死して仁を成す
聖明恩沢及枯骨。   聖明の恩沢 枯骨に及ぶも
五爵今無楠姓人。   五爵 今は無し 楠姓の人


          山中歌
問余山中棲幾年。   余に問う 山中 棲むこと幾年ぞと
世間甲子如雲煙。   世間の甲子は 雲煙の如し
采薬帰来日猶早。   薬を采り帰り来たれば 日猶お早し
獨聴松風石上眠。   獨り松風を聴いて 石上に眠る


              唯射利
操觚有弊幾時除。   操觚 弊有り 幾時か除く
著述僅成多魯魚。   著述 僅かに成って魯魚多し
乗勢姦商唯射利。   勢に乗じて姦商 唯利を射る
投機猾士欲求誉。   機に投ずる猾士 誉を求めんと欲す
人情原好新奇事。   人情 原と好む 新奇の事
世俗争伝猥褻書。   世俗 争い伝う 猥褻の書
名教更無毫末補。   名教 更に毫末の補う無し
汗牛充棟遂如何。   汗牛 充棟 遂に如何


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